第30話 佐藤の明かす気持ち

「ね、何かあった?」


佐藤が健斗のビールグラスを指で突きながら健斗に声をかけた。


健斗は、卓の家で飲んでから数日後無性に佐藤に会いたくなり、

佐藤を飲みに誘っていた。

しかし、

誘った健斗が誘った意図も大した話の内容もなく

ただ飲んで食べて過ごすことにいらだちを感じた佐藤が切り出した。


「あ…あぁ。」


「何、急に。

何かあったんじゃないの?」


「ごめん、誘っといて。」


「別にいいけどさ。

何もないならないで飲めばいいし~。

そうじゃないなら、

気になるじゃん。」


佐藤は右人差し指をくるくると宙に動かしながらにっこりと笑った。

健斗は卓のゲイという現実を佐藤に聞きたいが

この話をしたら佐藤に卓のことを勝手に話題にして

幻滅されるのではないかと迷いが出た。

どう切り出してよいかわからず、

その健斗のモヤモヤした気持ちを知らない佐藤の無邪気さを含む可愛さに

健斗の顔が赤くなった。

健斗は佐藤の独特な笑顔の可愛さに弱い。


「もう!

シノンらしくないね。

こんな空気だと、こっちもやりにくい。」


「そうだな…。」


佐藤の言う通りだった。

健斗のこの真意を言わない態度が2人にぎこちなさを与えていた。


「ごめん、実は、卓から本当のこと聞いた。」


「うん、すーちゃんに聞いたよ。シノンに話したって。」


「え?あ、そう。」


「シノンが混乱してるかもしれないから、

フォローよろしくって。

連絡しようかなーって思ったら、ちょうどシノンから連絡きた。」


健斗にとっては、

卓が健斗とのやりとりを佐藤に話していることが意外だった。

そして、健斗の心理に合わせてフォローまで依頼している連携の良さに驚いた。


「バレバレじゃん。」


「だてに、高校からの付き合いじゃないってことよ。

で、どう感じた?今のすーちゃんに対してなにかあった?」


「んー、まだよくわからないってのが本音。

ゲイって知る前も知った後も卓が卓として変わってないから…

びっくりはしたけど、

それ以上に何も気づかなかったことに、

自分に失望した感はあった。

他に何かを感じたかもしれないけど、

頭が真っ白になってあまり覚えてない。」


「ふーん、確かに真っ白になる感じはしたかも。

すっごいガッカリしたもん。」


「高校の時?」


「うん、すーちゃんが男が好きって気づいた時ね。」


「なんで?」


「なんで?

なんでって気になってた存在だからに決まってるじゃん。」


「え?佐藤、卓が好きだったの?」


「そうだよー、まったくもう!

そっちかーって衝撃受けた。」

佐藤がオーバーに両手を伸ばしながらテーブルに伏せた。


「ふっ。」


「え?笑い事じゃないんだけど。」


健斗は佐藤の失恋に笑ったわけではなく、

佐藤の動作がかわいくて笑ってしまったのだ。


「あ…ごめん。」


「初恋の初失恋だった。」


「うーん…。

でも、なんでそれが嘘カップルになったん?」


「え?すーちゃんが好きだったから。

好きな人を守りたいって思うの普通でしょ?」


当たり前じゃんという迷いのない自信に満ちた顔をした佐藤に

健斗はカッコよさを感じた。

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