第29話 また行きたいと思う場所

「ただい!!えっ?」


健斗が帰宅すると玄関でプー丸が尻尾を振って待っていた。


「あれ?俺、お前入れ忘れたか?」


プー丸を抱っこして体を撫でながら、

リビングのゲージに向かった。

ゲージを見ると出入り口の上下ロックの下に

クッションが挟まっており開いた状態になっていた。


「あ…これでか…

プー丸、おそそしてない?」


プー丸を抱っこしながら健斗はリビング・寝室を一回りした。

「今日な、すごいことを知ったぞ、卓のこと。」


「お前はまだ会ったことないよなー、今度会えるといいな。」

もちろん、この話は健斗のプー丸に対しての独り言。


プー丸は健斗に抱っこされることに満足して、

もたれかかっている。


「卓な、ゲイだった。

男の子が好きなんだよ。

プー丸も対象外ってわけ。」


「知らない世界すぎて動揺したけど、

本当の卓を知れてよかったよ。

プー丸は俺がいないとゲージの中で空間の自由が奪われて、

卓は恋愛の自由が奪われている感じがしたなー。

プー丸は事故があるといけないから俺の判断でゲージにいれてるけど、

卓は自立した大人だぞ。

自由を得るのが難しいっておかしいよな。

俺が女と付き合ったり、好きになるのと何も違わないのにな。」


プー丸は健斗の顔を舐め、健斗の独り言を妨げた。

スキンシップとおやつの催促を意味している。


「はいはい、

お前にとってはおやつのほうが大事だな。」


一日いいことも嫌なことも何があっても、

プー丸に会うと健斗の精神状態は安定する。

プー丸と暮らす前は独り言を言うことはなかったが、

今はプー丸に当たり前のように話しかけている。


「11時すぎか…」


卓と過ごした4時間ほどの時間は、

彼女といるときの時間よりも気が楽で、

心地よさのある時間だったと健斗は思った。


まるで目の前にいるプー丸と家で過ごすようなリラックスできる時間。


彼女と過ごすときは何をするか、

どこに行くか、

どう過ごすかを考えるのが当たり前になっていた。

今日卓に会うために家に行ったときは、

単に何を飲むかと食べるか、

買っていくものを考えるだけでよかった。

始めて行く卓の家だったにも関わらず、

必要以上な緊張もなく

実家に行くときのような感覚。


健斗は卓の家にまた行きたいなと思った。


プー丸と暮らし始めて家に帰ってくるのが楽しみになった感覚に似た、

次、行ける時が楽しみになる感覚を抱いた。

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