第23話 予期せぬ訪問者

クーラーの利いた涼しい部屋で、

普段と同じビールがおいしく感じ健斗はペースが進み、

卓宅のトイレを借りていた。


健斗がトイレから出ようとした時、

静かな空間にカギと玄関が開く音が響いた。


その音の直後ガシャンと音が響いた。


「すーぐーるー!」と聞きなれない声と足音が聞こた。

健斗は、トイレに籠るべきか迷ったが、

ずっといるわけにもいかずゆっくりとトイレから出て、

リビングの方を見た。


細身の170㎝程の人がリビングのドアを開けたところだった。

後ろ姿で男性だとわかったが、その割には華奢な体形をしている。

その男性は後ろにいる健斗に気づかず、

リビングのドアに来た卓に飛びつくように抱き着いた。


「捻挫したって聞いて―、

心配で来たよ!」


卓はやや蒼白し困惑した顔をして、突っ立っている。

卓の目線は男性を挟んで健斗にあり、

健斗は茫然とトイレの前で立ち、男2人が抱き着く姿を見ていた。


「大丈夫?痛い?」


2人の停止した時間を無視し甘えたような声で男性が卓に声をかける。

その声で卓は我に返った。


「あ、ああ。

暁史あきふみ、大丈夫、離れてくれないか?

足が痛い。まじで。」


「あっ!ごめん!

なんで連絡くれなかったの?

いくらこの前のことがあっても、教えてくれればよかったのに。

サークル仲間に聞いて飛んできたんだよ。」


健斗から暁史の顔をうかがうことはできないが、

抱き着いた腕は緩めていても卓の腰に当てたままの状態で、

上目であることは予測がついた。


「暁史、ごめん。来客中だから。」


「え?!」

と言いながら、暁史は卓の腰の手を離さないまま

卓の右からリビングを覗き込んだ。


「だれもいないよ。誰?どこ?」


「後ろ。」

卓の説明を聞いて、暁史は鋭い目つきで振り向いた。


暁史の表情は不信感をおびていたが、

少したれ目で厚めの唇を少し突き出し、

かわいらしい顔をしていた。


「え…。」

暁史と目が合った瞬間、健斗はろくに言葉が出なかった。


「ふーん」

っと、言いながら暁史は健斗に近づいた。

卓は暁史を止めようとし腕を伸ばしたが

足の痛みのせいで動きが鈍く間に合わなかった。


「初めまして。

暁史と言います。あなたは…?」


ニコニコとしながら自己紹介する暁史に対応できず

健斗は立ちすくんだ。

卓に抱き着く男という出来事に動揺したが、

それ以上に男なのに女のようにかわいらしい暁史の目から

視線を逸らすことができなかった。


「シノ、ごめん。リビングにいてくれないか?

暁史と少し話がしたい。」

先に口を開いたのは卓だった。


「あ…ああ。」

卓の声で我に返った健斗だが気まずい状況に明確に返事ができず、

卓と暁史の横を幽霊のように存在を消して通り過ぎ、

リビングに入った。


健斗がリビングに入るのに合わせ、

卓がリビングのドアを優しく閉めた。

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