第20話 別れ際 甘えを背負う

バーを出る時、

卓が慣れた手つきで佐藤のショルダーバッグを自分の体にクロス掛けし、

ヒール靴を持ちながら佐藤を抱っこした。

佐藤は安心しきった顔して寝ている。

歩道を歩き始めて、卓が健斗に声をかけた。

「お前、どーやって帰る?」


「あ、俺この近くだから歩き。卓は?」


「そっか、俺はタクシー。」


「佐藤はどうするの?」


「佳代はうち連れてくよ。このままきっと起きないから。」

さらっと言う卓に、健斗はビックリしてその驚きを顔に出していた。

2人の関係がなんでもないと思っていながらも

それ以上の関係を想像してしまったから。


「お前って本当にわかりやすいのな。」


「あ、いや。」

健斗は、健斗の中の想像がバレたかと思い気まずいと思った。


「大丈夫。俺と佳代はお前が思うような関係じゃないから。」


「でもさ、もう38で、これはやばいっしょ。」


「やばいかー…

まー、ハタから見たらおっさんがおぼさんを

抱っこしてるって異様かもな。

最初は佳代を起こしてたけどそのやり取りも面倒になったし、

起こす必要がないなら、それでもいいかと思って。

それに佳代にとってはこれが必要なのかなーって思ったら、

自然にするようになってた。

たまにのことだし、

わがままや甘える態度を受け入れることって難しくないから。

で、結局こんな感じ。」


「ふーん。」

その卓の考えと手段は健斗が理解できる範疇を超えてた。


「と言っても、誰でも抱っこするわけじゃないぞ。

佳代は大切な友だちの一人だから。

もし、健斗が寝ちゃったら、

抱っこしてやるよ。」


「えぇぇ…俺が困る。気持ち悪いだろ。」


「…冗談だけど…

でも、大切な存在に男も女もないと思う。

気持ち悪かろうが、他人が変って思おうが俺は構わない。」


卓の言葉をそのまま受け入れ拒否した健斗は、

卓の冗談や言葉の深みが見抜けず自分が抱っこされることを

意識しているようで恥ずかしく、

顔と耳が熱くなるのを感じた。


「なんか、ごめん。」


「あ…考え方は人それぞれだから。

俺もごめん。」



卓が一呼吸置いて健斗に声をかけた。

「また会えるか?

久しぶりにシノに会えて嬉しかった。

佳代もテンション高かったから、

嬉しかったんだと思う。」


健斗も2人に会えて嬉しかったが、

恥ずかしさの動揺が収まらず嬉しかったと感情を言葉に出すことができず、

「そうだな、また会いたいな。」

と、返事しただけだった。


「おう、会おう。」


「卓、お前の番号変わってない?

俺はずっと変わってないから。」


「うん、俺も変わってない。

だから、いつでも連絡くれていいから。

俺も連絡する。」


健斗はプー丸の待つ家に帰り、

卓と佐藤はタクシーで卓の家に帰った。

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