第19話 卓と自分
バーは、想像以上にシックで内装もおしゃれで、
客が数人いても静かな店だった。
バーテンダーは2人でアイロンがかかった白いシャツと
黒ベスト・ネクタイで引き締まり、
緊張感と清潔感があった。
健斗は焼き肉屋もバーも自宅から近いのに、
目立つ佇まいでもなく知らないお店だったが、
クオリティーは高く穴場的な店を知っている卓をかっこいいと思った。
30分ほどお酒を嗜んだら
佐藤がテーブルに伏せて寝てしまった。
「佐藤、マジ寝?」
「たまにあることだから。
飲むの好きで飲み過ぎると、寝る。」
と言いながら、卓が佐藤の頭を撫でてほほ笑んだ。
その優しい手つきとほほ笑みに健斗は疎外感を感じた。
2人と食事を始めてから何回も感じる感覚だった。
「そっか。
今でも仲いいのな。」
「まぁ、お互いいろいろあったっていうか、
なんていうか…。
健斗と会わなくなって、しばらくして佳代と再会してから、
やたらと2人で会う機会が多くって。
健斗はどうだった?15年?12年?ぶりだよな、会うの。」
「俺は大した人生じゃないというか、平凡な感じ。」
卓が健斗を見てただほほ笑んだ。
「佐藤に会って、名刺もらって、社長って知って、
すごいなーって思った。
俺は、イチ会社員。転職すらしてない。
起業する度胸も、センスもないからさ。
生き方の距離?差?濃さ?みたいなのを感じたよ。」
「そうだよなー、俺も再会したときに起業したって聞いてびっくりした。
大丈夫か?って思う時もあったけど、頑張ってる。
ニコニコしてるけど、必死なんだろうなって思うよ。
俺にも、マネできない。」
佐藤と話をするときの卓は佐藤のテンポに合わせて明るかったが、
今の卓の口調は優しく健斗の意識は卓の独特なオーラに引き込まれていた。
卓は高校の時から、
健斗を引き付ける不思議なオーラを持っていた。
「うん…卓はどうなの?仕事とか。」
「俺は、転職して企画・デザイン広告の会社に勤めてる。」
と言いながら、ウイスキーを飲んだ卓。
そのグラスを持つ手と指が男らしさの中に
細く精細さがあり健斗は見入ってしまった。
「ん?どうした?」
「っは。ごめん、卓の手がきれいで…。」
「なんだそれ。佐藤に気持ち悪いって言われるわけだ。」
と言って卓が肩を震わせて笑った。
その後、卓の現職の仕事や健斗の仕事の話になった。
久しぶりに会う友人とは、過去の共通の思い出話はしやすいが、
お互い知らない内容はどこまで話していいのか
わからないもんだと健斗は時々話題に困った。
そして、高校の時から親友と思っていたほどの仲であったのに、
今は卓を遠くに感じた。
「明日から仕事だし、そろそろ帰るか?」
卓が今日の終わりを持ちかけた。
腕時計を見ると、針は0時前を指していた。
「そうだな、その方がいいかも。」
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