第18話 3人の時間

「気持ち悪いって…

うれしかったから、つい。」


「シノのそういうとこって変わらんのな。」

急に卓が不思議なことを言った。

健斗もこの意味がわからなかった。


「え?どういうとこ?」


「普段、不愛想できついイメージなのに、

実はフニャッてるところ。

自分で気づいてないかもしれないけど、

昔から心の声が顔に出てるぞ。」


「あはは、確かに言えてる。」

と、佐藤は卓の意見に賛同した。


「そのイメージ崩れるから、やめて。」


「いいじゃん、俺らにはもうばれてるし、

普段と違う顔があっても。

それが健斗っぽい。」


盛り上がる3人の会話と食事は時間が過ぎるのを、忘れさせた。

健斗にとって、

その時間は“佐藤と”と限定したものではなく、

卓を含めた3人のものだった。


あっという間に3時間が過ぎ、

お店のタイムリミットが来て、

3人は退店した。


佐藤は酔っているようで上機嫌だった。

電車の中で再会した時の落ち着いた印象ではなく、

高校時代の活発な佐藤に近かった。

「この後どーする?まだ10時ー??」


卓が確認する。

「佳代もシノも明日仕事だろ?」


2人とも頷く。


「そしたら、帰った方がいいんじゃない?」


佐藤は卓の話を聞かず、

「んじゃ、もうちょっと飲みにいこ。

帰りたくないよー。

せっかく3人で会えたのに。」


このなんでもないわがままを含ませた素直な佐藤は主張した。

健斗もまだ2人といたいと思ったがどう合わせてよいかわからず、

とりあえず2人に合わせることにし黙っていた。


「あーもー、わかった、あと1件だけだぞ。

シノも時間大丈夫か?」


「俺は大丈夫。でも、どこ行く?」


「シノン家がいいー。」と佐藤が即答した。


「は?そんな急だとシノも困るだろ。

それに家の場所なんて知らんだろが。

いつもいくバーだって、近くにあるから…

健斗、そこでもいいか?」


健斗は自宅と言われ一瞬と焦ったが、

卓がすぐ方向転換をしてくれたおかげでホッとした。

自宅以外であれば、健斗の答えは決まってる。

「あ、どこでもいい。」


「はー、もう、本当すーちゃんってつまんない。」

卓の提案に納得できない佐藤は、

若干小言を言った。


「はい、はい、それでいいよ。

つまんなくていいの。」

と卓は佐藤に優しく言いながら、

頭を撫でてバーのある方向へ誘導した。

185㎝程ある卓と160cm程の佐藤との身長差と腕の位置が

ちょうどよいバランスだった。


この2人を後ろから見ていた健斗は、

再び2人との距離を感じた。

無意識に歩くスピードが遅くなり、

2人との間に物理的な距離ができた。


「もー、シノン早く来てよー!

おいてくよー。」


遅れに気づいた佐藤が健斗を呼んだ。

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