第21話 失った陽菜、自分の小ささ

朝起きて、スマホを見る。

誰からも電話もメールもなかった。

陽菜からも。


「いってきます。」

家を出る時必ずプー丸をゲージに入れて、

声をかけ、おやつをあげる。


プー丸は話さないが、

「いってらっしゃい」と言っているように健斗を見上げる。

健斗は時々このプー丸の目線で家にいたいと思う時がある。


電車に乗りながら、

健斗は卓の言葉と

陽菜のことを思い出した。


卓の言葉、

“わがままや甘える態度を受け入れることは難しくない”。


陽菜はわがままになったり、よく不安になったり、

俺を試すような言動をした。

それは、陽菜の俺に甘える方法の一つだったのかもしれない。

陽菜は俺に受け入れたり、

認めてほしかったのかもしれない。

俺はその場しのぎで何も受け入れてなかった。

陽菜の安心のために俺は何もできていなかった。

陽菜が酔って寝潰れたら、陽菜を抱っこして帰宅したか?

陽菜が自分の足で歩くこと、対処することを求めたかもしれない。


自分のしたアクションは、

労力に対して予測される反応を示すこと(結果)を

無意識に陽菜に期待していた。


もしかして、

自分が間違っていたのかもしれない、

陽菜を傷つけたかもしれない、という考えに行きついた。


陽菜は自分との関係に終止符を打ち、別れを告げた。

きっとそれは、

この前のやり取りで急にわいた感情と結論ではなく、

今までに何回も思い悩むことがあって、

決定打がこの前の出来事に過ぎなかったのだろう。


もし、俺が連絡したら、

陽菜はもう一度俺との関係を考えるか?

今更陽菜にとっては迷惑な行動になるのか?

鬱陶しい存在か?

陽菜は俺をどう想っているんだろう…


会社の最寄駅に着くと同時に健斗は現実の世界に戻った。


卓の言葉がなければ、

整理がついた関係についてあとから考えることはなかった。

また、健斗は自身の言動を振り返ることもなかった。

しかし、健斗の出した答えは、

今までと変わらず“連絡しない”だった。


そこに健斗が連絡をとりたいか、

陽菜との関係を修復したいか、

健斗が陽菜のことをどう思っているかという気持ちは含まれなかった。


そして、陽菜からも健斗に連絡が入ることはなかった。

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