第12話 左折か直進か
「だまってたらわからないんだけど。」
「健斗はどうしたい?」
「え?俺は陽菜に聞いてるんだけど。」
「私のことじゃなくて、健斗のことが聞きたい。」
健斗は一緒にいるか、帰るかの2択の簡単な返事をせず、
自分にその選択を委ねる陽菜にいらだちが生じ、
健斗はだまった。
「もういい。」
「何が?」
「健斗にとって私はそんな存在なんだよ。」
健斗は陽菜の言う内容の意味が理解できなかった。
一緒にいるか、帰るかの2択…
その質問がなぜお互いの存在の話になっているのか。
「ごめん、意味がわかんない。
単に俺ん家に来るか、帰るかどっちにするかの話だろ。」
「そうだけど、だからって、
健斗がそのまま家に走らないってことは、
私と一緒にいたくないってことでしょ。」
健斗の口から無意識にため息がでた。
「そう解釈するのやめたら?
陽菜がどっちがいいか聞いただけでしょ。
そろそろどうするか決めてくれないと、
道が違うから困るんだけど。」
陽菜は自分の気持ちをわかってほしいと期待したが、
健斗は道の選択を気にしていることにショックを受けた。
もし、どちらの家に行くか私の答えが出てないなら、
今左右どちらに曲がるか決める必要はなく、
どこか適当に走ることもできるはず。
“私より道の方向が大事なのか”と
陽菜が悶々と考えをめぐらしている間、
健斗は大して何も考えていなかった。
どちらも口を開かず、
健斗の家か、陽菜の家か、
向かう方向を選択する交差点に差し掛かった。
車が直進したら健斗の家、左折したら陽菜の家だ。
陽菜は健斗がどっちの方向を選択するかで
私といたい(想っているか)、
いたくない(その程度)か再び賭けることにした。
健斗はウインカーを出し、車を減速させた。
陽菜はこの瞬間、健斗からの終止符を感じた。
横断歩道は多くの歩行者が横断しており、
車は停車した。
歩行者の中に楽しそうなカップル、
笑顔の親子がいた。
車内の空気は重たく息苦しく、
歩行者(外)との温度差を感じた陽菜は、
心の中でつぶやいた “最悪”と。
ほんの10分くらいで、車は陽菜のアパートに着いた。
「着いたよ。」
健斗は落ち着いて静かな声をしていた。
その一言がなくても子供でも自宅に着いたことぐらいわかる。
陽菜は何も話さず、
健斗の顔を見ることもなく車を降りた。
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