第11話 すれ違う2人

2人はすっきりしない状態のまま車に戻り、

先に陽菜が口を開いた。

「このあと、何する?」


「うん…。」

昼食の顛末で健斗はこの後のデートに気が乗らず、

陽菜が何を望んでいるのか考えるのも嫌になり、

返事は簡素だった。


「ごめんね。」

健斗の反応の悪さで陽菜は罪悪感を抱き、謝った。


「何が?」


「せっかくここまで来て予約とかもしてくれたのに。

ごはん残して追加も断っといて、他のが食べたかったって言ったし。

わがままだった。」


健斗は陽菜の言葉を聞いていい歳の男が拗ねてみっともないと思い、

陽菜を許すことにした。

「もういいよ。」


「え、もういいって何?

そんなに怒らなくてもいいじゃん。」

少し、健斗の返事に納得できないという口調で陽菜が返した。


「え、もうこのことはいいから、

この後何するか決めよ。」

健斗は陽菜を責めているつもりはなく、

次何するか決めたかっただけだった。


「いくないじゃん。

なにも解決してないじゃん。

そんなきつい言い方しなくても…」


「そんなきつい言い方してないよ。

それにもう怒ってないし。」


「うん…」


「どうしようか…

陽菜がもう帰りたいなら帰ってもいいし、

ここら辺で観光するならしてもいい。

どっちがいい?」


「健斗のいい方でいい。」


「わかった、じゃ、とりあえず帰ろう。」

この2人の会話、雰囲気では、

観光しても楽しくない時間になるだけと判断し、

帰宅を選択した。

帰りの道中は2人とも話さず、

重い空気だけが車の中に漂っていた。


健斗はなぜこの状況になってしまった原因を探り、

解決できる方法を考えたが、

起きてしまったことを変えることはできないと思い、

とりあえず黙って運転に集中した。


陽菜は健斗の素っ気ない態度が腑に落ちなかった。

そして、このまま2人の関係がダメになるかもしれない不安を抱き、

健斗の顔が視界に入らないように助手席の窓から外の風景を眺めた。


片道3時間は2人の気持ち・態度を鎮めるのにちょうどよい時間だった。

高速のゲートをくぐり、下道を走りかけた時、

口を開いたのは健斗だった。

「まだ16時過ぎだけど、どうする?

うちに来てもいいし、帰ってもいいし、

陽菜の好きにしていいよ。」


健斗は陽菜の選択を尊重するために陽菜に選択権を与えた。

陽菜は健斗が車を健斗の家に向かわせば自分と過ごしたいと思ってくれている、

つまり、

自分のことを想っていると判断できると心のどこかで期待していた。

そして、健斗に好きにしていいと言われ、

いつものように陽菜と過ごしたいと思ってなく、

自分との関係性もそこまで考えてくれてない、

健斗は自分と一緒にいたくないのかもと解釈した。


「え…、どうしようかな…」


今回は陽菜自身が犯した失敗と理解しており、

健斗と一緒にいたいと言ったら鬱陶しいと思われるかもしれない、

自宅に帰ると言ったら健斗のことをその程度にしか想っていないと

健斗に思われるかもしれないと、

陽菜の頭の中は答えがでないままでいた。


「どうするの?」

健斗はしばらく答えを待ったが、

何も言わない陽菜に再び聞いた。

この時点で健斗は今後の2人の関係性や

お互いを想う気持ちは考えておらず、

陽菜が今自分と一緒にいたいか、

帰りたいかという単純な答えが欲しいとしか考えていなかった。

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