第41話 気づく感情と困惑

「ただいま、プー丸。」


卓の家から帰ってきた健斗はプー丸をゲージから出しながら声をかけ、

プー丸は尻尾を振りながらゲートを出てすぐに健斗の足にまとわりついた。


プー丸を抱っこしながら、エアコンの電源を入れ、

荷物を簡単に片づけた。

その後、いつものプー丸とのスキンシップを済ませ、

健斗は酔いをさっぱりさせるためシャワーを浴びにいった。


健斗は昔からシャワーやお風呂の時間が無駄と考えており、

リラックスするより洗い流すための目的で相当早い。

烏の行水がぴったり当てはまる。


「はー、あっつ。おまたせー。」


健斗はソファーに倒れこむように横になった。

ゲージに戻っていたプー丸は健斗の動きが止まるのを確認してから

健斗の横の隙間に移動した。


横になりながら健斗はスマホを見た。


「23時かー…」


明日が仕事ですぐ寝てもよい状態の健斗であったが、

ベッドへ向かう気にならなかった。


「プー丸、今度、卓と会えるといいな。」


急に名前を呼ばれてプー丸は健斗を見た。

健斗はプー丸に独り言を続けた。


「お前、自分でかわいいと思ってるだろ?」

「その通り、かわいいぞ。」

と言いながら健斗はプー丸の首元をマッサージし始めた。

プー丸は気持ちよさそうに目を閉じた。


そんなプー丸の顔を見ながら穏やかな時間が卓と過ごす時間と結びつき

健斗に安らぎを与えた。

そして、すぐに健斗の頭にその流れに反する思考が沸いて出た。


健斗は恋愛相手を女性とし、

他者と変わらない恋人との関わりをしてきた。

女性(彼女)とはうまく続くことがなく、

女性との関わり方がわからず疲労感をよく抱いてはいた。

それでも、自分の恋愛対象が女性であることに疑いの余地はなかった。

しかし、数時間前から経験と感情が狂い始めていることに気づいた。

卓といた時間、関わり、経験と多くの年月を経てきたが、

異性か同性か全く意識したことがなかった。

卓は“友達”“親友”“同級生”であって、それ以上でもそれ以下でもなかった。


思いかえせば、卓の匂いや一緒にいるときの安心感、

他の友人や職場の同僚の峰と一緒に過ごす時間とは違う何かがあった。


高校の時に抱き着かれた不快感すらなかった。


「いや、待て待て。違うよな…?」

健斗は自分の感情と思考にどうようし、声が漏れた。


誰からも返事はなく、プー丸は手を舐めて自分の世界に入っている。


健斗は気づき始めている感情と過去の経験、整理のつかない状況に困惑と動揺が生じ、何もそれ以上のことを考えられなくなった。

健斗は目を閉じて、おやつの催促でプー丸が前足で健斗の右腕を引っ掻くまで

約1時間動かなくなった。

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