第34話 好きだった理由と自分
「なー、佐藤。
佐藤はなんで卓が好きだったん?」
「え?!なんでまた急に…」
「いや、理由はないけど、なんとなく。」
理由はないわけではなく大ありだった。
健斗は卓が抱きしめた理由が気になっていたが、
それは恐らく卓が自分のことが好きで咄嗟に生じた行動だと結論に至った。
しかし、
それ以上に健斗は自分の卓を受け入れていた情緒が気になり、
卓が好きだった佐藤の感情が知りたかった。
「うーん、なんでだったかな。
20年以上前だから、あんま覚えてないけど。
今でもすーちゃんといて感じるのは、
大きさかな?あったかいというか?
独特なすーちゃんの放つ雰囲気?」
意味が理解できず健斗は黙っていた。
「すーちゃんって、まっすぐで、
他人を攻撃したり傷つけたりしない。
だから、きっといっぱい自分責めたり辛い思いも
経験もしているのに、
全部受け入れて外に出さない気がする。
それに一緒にいると安心するんだよね。」
「確かに…。」
「今更気づく感情として、
一番合う言葉は“尊敬”だったのかな。
自分にない多くを備えているすーちゃんに憧れて、
好きな感情が増して、
そばにいて彼を知ることであたかも自分にも
その人間性が備わったような感じになってたのかも。
…あぁ…へこむわー。」
「え?!」
「え?だって、すーちゃん餌にしてたコバンザメみたい。」
「あはは、なんだそれ。」
「きっと高校時代の私は好きな人を守りたいってカッコつけて、
本当は不純な感情を抱いている人間だったのかも。
考えたことなかったけど、
すーちゃんと同い年なのに、今でも自分がちっぽけに感じる。」
「佐藤がコバンザメかどうかはわからんけど、
それだけ、好きだった理由を言葉にできるなら、
不純ではないと思うぞ。
不純だったら、
卓のことそこまで見てないし、言葉にできない気がする。」
と、言いつつ佐藤が卓が好きだった理由に納得しながら、
卓という人間の存在を思い描いた。
健斗は心が穏やかになる感じがした。
気づくと佐藤がじーっと健斗を見ていた。
「ん?」
「シノンは、本気で好きになった人いる?
別れても忘れられない人とか、
必死に追いかけたくなる人とか。」
「え…?」
健斗は一瞬で誰の顔も思い浮かばなかった。
「なんで?」
「んー、なんとなく、
シノンとの話がなんとなく、他人事的な…、
男だからかな…?
伝わらない感じがしたから。」
佐藤の言葉が図星だと健斗は気づいたが、
認めるのがイヤだった。
「そうなのかなー、よくわからんけど。」
「ま、そういう年齢でもないか。
今や恋愛以外にいろいろとすることも、
大切なこともあるからね。
どっちが大事とか優先とかってのもないんだけどねー。」
佐藤が話をまとめてくれて健斗はホッとした。
しかし、38年間、
誰も本気で好きになったと思えない自分に
何か欠落している感覚が生じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます