第37話 卓の前では素直な自分
「俺が佐藤への気持ちがはっきりしてないこと、
気にならないか?」
「そうだなー…そこまでは。
だって、それってお前らが決めることだし。」
「まぁ、そうだけど。
もっと佐藤を守りに入るかと思った。
はっきりしろよって言われるみたいな。」
「いや、俺は佳代の父親じゃないし。
俺が佳代にお前にゲイって話したことを
佳代が気にかけてお前を誘ったと思った。
でも、お前が会いたくて誘ったって聞いて、
好きなのかと思っただけ。」
「ふーん…確かになー。」
「…なー、卓って本気で好きになったことある?」
「何?急に。大丈夫?」
「そうだよなー。
この前も今もなんでこんな恋愛話してんだろ。」
健斗も恋愛話を男とすること自体が珍しいことは自覚していた。
しかし、なぜかその話題を口にした。
「もしかして、
お前、俺の恋愛でも知りたいのか?ゲイのこと。」
「え?」
この卓の質問に違和感があった。
卓の恋愛が知りたいのか、
ゲイのことが知りたいのか考えてなかったから。
「うーん、ゲイがどうとかっていうのか、
卓が恋人を今までどう想ってきたのか?」
「女を好きになったことがないから違いがあるのかわからんけど、
恋愛は本気だぞ。相手によって惚れ込む程度はあるけど…。」
卓がまじめな顔で健斗に返事をした。
「だよな~。」
「前も言ったけど気にしなくていいから、
聞きたいことストレートに聞けよ。」
「あぁ…。」
健斗は自分の聞きたいことや気になることが、
うまく言葉で表現できなかった。
プライドが邪魔したのか、恥ずかしさなのか…。
しかし、話題を振ってこのまま終わるのも、
モヤモヤしたままなのも気持ちが悪いと感じ、
健斗は口を開いた。
「この前、佳代に本気で好きになったことがあるのかって聞かれて、
誰も思いつかなかった。
俺、本気で好きになったことないんだよなー。
何か欠けてんのかなって思って。」
「うーん…。」
「卓はどうなんかなーって。」
「ふーん。
シノが恋愛の面で欠けてるかどうかわからないけど、
好きになる気持ちって人それぞれで比較できないから、
そんな気にしなくていいんじゃない?」
「だよなー。」
解決できたようなできないような状態で
健斗はグラスのビールを一気に飲みほした。
「ま、飲め飲め。飲んどけ。」
卓が健斗のグラスにビールを足した。
ビールを注ぐ卓の前腕の筋肉の付き方が
運動嫌いな健斗のか細い腕とは違いひきしまっており、
つい健斗は見とれてしまった。
高校時代の健斗を抱きしめた腕。
「おい、見すぎ。」
「え?あぁ。
お前っていい腕してんな。」
「なんだそれ。
いちいち見すぎだって。」
「いや、つい。」
「その癖直した方がいいんじゃない?」
「え?」
「気になるとじーっと見る癖。
すーぐ表情に出す癖。
なんでもない癖でも相手を勘違いさせる。」
「あはは、勘違いって。
卓だって俺の癖をよく知ってるってことは、
それだけ見てるってことだろ。
同じじゃん。」
卓の前では素直になってしまう健斗。
卓のことはよく知っているつもりだったが、
何十年もゲイと知らなかった。
もっと卓のことを知りたい、話をしたいと思うようになっていた。
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