第25話 去った暁史と残った鍵

そのまま卓は無言でキッチンカウンターに鍵を静かに置いた。

健斗は卓の行動を無言のまま目で追い、

カウンターに置かれた鍵に視線が捕らわれた。

健斗の視線に気づいた卓が健斗に答えを与えた。


「ごめん。こんなはずじゃ。

これ、暁史のここの鍵。」


健斗はなんと返すべきがわからず、黙っていた。


「前に一緒に暮らしてて、

もっと早くに鍵を返してもらうはずだったけど。

まさか今日来るとは…。」


「うん。」


「あ、テーブルありがとう。

片づけてくれたんだ。」


「あぁ…いいよ、それくらい。

台拭きわからなくて、ペーパー使ったぞ。

一応、取り皿とかビールかかってたのは、

洗ってあっちにあるから。」


「いろいろごめんな。」


卓の表情は切なく、

暁史とどうなったか聞くべきか放置すべきか、

健斗はこれ以上何をしていいのかわからなかった。


「困ったことがあったら、

遠慮せず言えよ。

俺でよければ…」


「んー。」

卓の力ない返事に健斗は戸惑った。

今まで健斗の前の卓は、優しく、人当たりがよくて器の大きく、

対処能力が高かった。

それなのに、暁史との会話から戻った卓は、

暁史はもう家の中にいないのに何かを引きずったまま頭の中では考え事をしている。


「卓、俺、帰ろうか?

今は俺じゃなくって、暁史くといるほうがいいんじゃ…

俺がここにいても…」

健斗は卓が暁史のことを考えていると思った。


「え?あ…いいや、そうじゃないんだ。

暁史のことはもう…。」


健斗はとりあえず、ビールを一口飲んだ。


「暁史のことを考えてるわけじゃない。

あいつとはもう数か月前に終わってる。」


“終わってる”という言葉で健斗は1人の時間の想像が的中していたと確信した。

そして、表情が固まったのを健斗自身が感じ取っていた。


「ふっ。またお前、顔に出てる。

ほんと、素直だな。」


「あ…ごめん、俺。」


クスッと笑った卓だが、その顔に力が入ってなかった。

「謝んなって。なにも悪くない。

健斗が何考えてるか何となくわかるよ。

言わなかった俺が原因だから。」


「でも、卓って、佐藤と付き合ってたし。

そんな感じ全然なかったっていうか。」


「そうだなー。

お前が全然わかってなかったから、言わなかった。」


卓の一言で健斗の視線は卓の目から離せなくなった。

そして、

健斗の頭の中では卓との過去のやり取りや関係を走馬灯のように

思い出したが、全然わかってなかったポイントがわからなかった。

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