第27話 引きずっているのは自分
「暁史くんが来たことは、
卓にとって望んでなかったことかもしれないけど、
俺にとっては卓を知ることができてよかったかもしれない。」
こんなことを言うのが健斗にとっては、
精一杯だった。
38歳でも何も気に利いたいい言葉が出てこない。
「うーん…確かに。」
すっきりしない卓の反応を見て、
健斗は何が卓の頭を納得させていないのかわからなかった。
「ゲイのことは全くわからない。
でも、卓のことはよくわかってるし、
俺は卓との関係を変えない。」
「ありがと。」
卓は健斗が洗った食器を取りに行った。
キッチンカウンター越しに卓が健斗に声をかけた。
「なんでも聞いていいから。
気をつかわなくて。
シノの恋愛も俺の恋愛も変わらないと思ってる。」
と言いながら、
健斗の前にある取り皿と
健斗が洗ったペアの取り皿を上にあげて振った。
卓の一言で健斗はすっと気が楽になった。
恋愛対象が男であることと、
女であること、
性が違っても相手を想う気持ちは変わらない。
信頼する友人に対して、
話題を気にする必要も緊張する必要もないのだ。
納得できないようなモヤモヤした感情を引きずっていたのは、
卓ではなく健斗だった。
卓はその緊張した健斗をどう楽にするか、
考えていたのだった。
「卓、お前ってすごいな。」
クスッと情けなく笑う健斗に対し、
「だから、お前の顔に書いてあるんだって。」
と言いながら、
いつものおおらかな卓の笑顔になった。
卓の笑顔は部屋の緊張した空気をやわらがせた。
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