37
「…ただいま」
「うやや」
「うや!や!」
久しぶりのオフ。
作った焼きプリンを子供達と食べようとしてる所に、麗が帰ってきた。
「あ、おかえり……どうしたの?」
「何」
「浮かない顔して」
「…別に」
麗は咲華のプリンを一口食べて。
「着替えてくるからね」
って、二人の頭を撫でた。
「……」
麗、最近本当に元気ない。
誓は彼女ができて、毎日バラ色…なんて言ってたけど。
「あーんんん」
ふいに、華音にスプーンをつきつけられる。
「はい、ありがと。あーん」
「んっ」
華音が口に運んでくれたはずのスプーンは、的を外れてあたしの頬を直撃。
「あっ、もうっ…ちゃんとお口に入れてくれると嬉しいんだけど?」
「どぉー?」
「ふふっ」
「うんっ、うんっ」
プリンがついた頬に、咲華がタオルを押し当てる。
「あら、咲華。ありがとう」
「あっぴ」
なぜかうちでは、『きれい』な事を『あっぴ』って言うみたいで。
最初咲華がそう言った時は、何のことか分からなかったけど…
どうやら、おばあちゃまが二人にそう教えたみたい。
誓と麗が言ってるのを聞いた事はないけどなあ…
「あらあら、楽しそうだこと」
「あ、おばあちゃま。おかえりなさい」
何もついてない方の頬を華音に拭かれてると、今日は書道の先生の展示会に出かけてたおばあちゃまが帰って来た。
「ばー」
「はあい、ただいま」
おばあちゃまは静かに腰を下ろすと、駆け寄った二人の頭を撫でた。
「あ、気を付けてね。二人とも手にプリンついてる」
「いいですよ、少しぐらい」
そうは言うけど、おばあちゃまが着てる着物は高価そう。
「華音、咲華、手拭こう?」
あたしが二人の手を濡れタオルで拭いてると。
「…麗は帰りましたか?」
おばあちゃまが、廊下を見ながら言った。
「うん、今着替えてる」
「そ…あら、サクちゃんくれるの?」
「あーんんん」
「咲華、そこで手を止めて」
あたしに注意された咲華があたしを見上げてる間に、おばあちゃまがスプーンに口をつけた。
「あーん…あら、おいしい。知花が作ったのかい?」
「うん」
「あまり甘くなくていいですね」
「……」
つい、クセで。
千里が、あまり甘いの好きじゃなかったから…
…そうだ。
次はもっと甘くしよう。
子供達に作るんだもの。
もっと甘くたっていい…
「知花…」
「はい?」
「………夕飯、何にしましょうかね」
おばあちゃまは、ため息をつきながら。
「着替えてきますよ」
って部屋に向かった。
「…何かな」
麗も、おばあちゃまも、何だか浮かない顔だった。
聞いてみようかな。
少しだけ気になったけど、夕食の時には二人とも普通になってて。
あたしは結局何も聞き出せなかった。
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