32
「ジェニー!サインしてーっ!」
ライブハウスから一歩出て、ギョッとする。
クリスマス。
あたしたちのライブは大盛況で。
チケットはライヴハウスの窓口販売のみだったにも関わらず、発売開始からわずか10分で500枚ソールドアウトって聞いた時には、トリ肌がたってしまった。
そしてそれは、このライヴに先駆けてやった秋のインストアライヴが、小規模ながら成果を上げていたんだと実感した。
「ジェニーって誰…?」
あたしが、閉じたドアの内側でみんなに問いかけると。
「おまえが、んなこと言うからだ。アホ」
陸ちゃんが、頭を抱えて言った。
「だって、まだ名前言うなって朝霧さんに言われてたから…」
そう。
よく分からないけど…朝霧さんの戦略だそうで。
「ええか?まだ名前明かすんやないで?しばらくは謎に包まれとけ」
って。
そこで、あたしは。
『好きなように呼んでください』
って言ってしまった。
「あたし、ダイアナって言われちゃったよ。」
聖子は、ご満悦の様子。
「それよか、どうすんだ。これじゃ、外出れないぞ。」
「思いもよらなかった展開になってるな…」
あたしたちが話し合ってると。
「おまえら何してんねん。打ち上げ行くで。」
って、朝霧さんは満面の笑み。
「あ、でも、外…」
「あ?ああ、ファンやろ?適当に笑うて手ぇふっときゃええんや。さ、行くで。」
朝霧さんに引っ張られて、あたしたちは言われた通り適当に笑いながら(ひきつってたけど)手を振る。
ライヴは…最高だった。
インストアライヴは、アコースティックだったから…SHE'S-HE'S持ち前のハードな曲は抑えめになってしまったけど。
…今日は、実質これがあたし達の初ライヴって事で。
気合も入ってたし…力も入り過ぎてた。
おかげで、聖子がシールドに引っ掛かったり、あたしがマイクに顔をぶつけたり…なんて小さなトラブルもあったけど。
サウンドに関しては…文句なし。だったはず。
…本当、最強のメンバー…。
「SHE'S-HE'S、初ライヴ大成功!!乾杯!!」
朝霧さんの音頭で、乾杯した。
スタッフも多くいるその会場で、あたし達は集まって反省会を始めて。
「ええ事やけど、そんなん明日や!!今夜は飲め!!」
って朝霧さんに言われて。
顔を見合わせて笑う。
…あの別れは正解だった。
あたしは、今も抱えてる傷を隠すように。
何かが成功するたびに…そう思った。
「あたし、先に帰るね」
光史に声を掛けると。
「あ?なら俺も帰る」
光史は当たり前と言わんばかりに優しい顔になった。
「いいよ。光史はもっと楽しんで。何なら帰らなくてもいいから」
「随分な事を言ってくれるな」
「せっかくだから」
あたしと光史が話してると。
「なら、あたしが泊まりに行く。それでどう?」
聖子が割り込んで来て。
「ああ…それなら任せよう」
光史が頷く。
「帰って来ないでね♡」
「そう言われると帰りたくなる」
「絶対帰るなっつーの」
「誰の部屋だと思ってんだ」
聖子と光史のやりとりを見て笑うと。
「…ま、遠慮なく朝まで飲ませてもらう」
光史はあたしと聖子にグラスを掲げて言った。
それからあたしと聖子は、
光史のアパートで、興奮冷めやらぬ夜を過ごした。
そして、次の日の新聞には…
『日本人初。SHE'S-HE'S来夏グランドロックフェスティバル参加決定』
って、あたしたちも知らないニュースがでかでかと取り上げられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます