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「ジェニー!サインしてーっ!」


ライブハウスから一歩出て、ギョッとする。


クリスマス。

あたしたちのライブは大盛況で。


チケットはライヴハウスの窓口販売のみだったにも関わらず、発売開始からわずか10分で500枚ソールドアウトって聞いた時には、トリ肌がたってしまった。

そしてそれは、このライヴに先駆けてやった秋のインストアライヴが、小規模ながら成果を上げていたんだと実感した。



「ジェニーって誰…?」


あたしが、閉じたドアの内側でみんなに問いかけると。


「おまえが、んなこと言うからだ。アホ」


陸ちゃんが、頭を抱えて言った。


「だって、まだ名前言うなって朝霧さんに言われてたから…」


そう。

よく分からないけど…朝霧さんの戦略だそうで。


「ええか?まだ名前明かすんやないで?しばらくは謎に包まれとけ」


って。

そこで、あたしは。


『好きなように呼んでください』


って言ってしまった。



「あたし、ダイアナって言われちゃったよ。」


聖子は、ご満悦の様子。


「それよか、どうすんだ。これじゃ、外出れないぞ。」


「思いもよらなかった展開になってるな…」


あたしたちが話し合ってると。


「おまえら何してんねん。打ち上げ行くで。」


って、朝霧さんは満面の笑み。


「あ、でも、外…」


「あ?ああ、ファンやろ?適当に笑うて手ぇふっときゃええんや。さ、行くで。」


朝霧さんに引っ張られて、あたしたちは言われた通り適当に笑いながら(ひきつってたけど)手を振る。



ライヴは…最高だった。


インストアライヴは、アコースティックだったから…SHE'S-HE'S持ち前のハードな曲は抑えめになってしまったけど。

…今日は、実質これがあたし達の初ライヴって事で。

気合も入ってたし…力も入り過ぎてた。


おかげで、聖子がシールドに引っ掛かったり、あたしがマイクに顔をぶつけたり…なんて小さなトラブルもあったけど。

サウンドに関しては…文句なし。だったはず。


…本当、最強のメンバー…。



「SHE'S-HE'S、初ライヴ大成功!!乾杯!!」


朝霧さんの音頭で、乾杯した。

スタッフも多くいるその会場で、あたし達は集まって反省会を始めて。


「ええ事やけど、そんなん明日や!!今夜は飲め!!」


って朝霧さんに言われて。

顔を見合わせて笑う。



…あの別れは正解だった。


あたしは、今も抱えてる傷を隠すように。

何かが成功するたびに…そう思った。



「あたし、先に帰るね」


光史に声を掛けると。


「あ?なら俺も帰る」


光史は当たり前と言わんばかりに優しい顔になった。


「いいよ。光史はもっと楽しんで。何なら帰らなくてもいいから」


「随分な事を言ってくれるな」


「せっかくだから」


あたしと光史が話してると。


「なら、あたしが泊まりに行く。それでどう?」


聖子が割り込んで来て。


「ああ…それなら任せよう」


光史が頷く。


「帰って来ないでね♡」


「そう言われると帰りたくなる」


「絶対帰るなっつーの」


「誰の部屋だと思ってんだ」


聖子と光史のやりとりを見て笑うと。


「…ま、遠慮なく朝まで飲ませてもらう」


光史はあたしと聖子にグラスを掲げて言った。



それからあたしと聖子は、華音かのん咲華さくかを迎えに行って。

光史のアパートで、興奮冷めやらぬ夜を過ごした。



そして、次の日の新聞には…


『日本人初。SHE'S-HE'S来夏グランドロックフェスティバル参加決定』


って、あたしたちも知らないニュースがでかでかと取り上げられていた。

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