17

「知花の誕生日って派手よね」


 聖子が笑いながら言った。


「クリスマスに便乗してるから…」


 クリスマスイヴ。

 あたしは、17歳になった。


 今日は事務所に到着してすぐ、うちの男性陣四人から素敵なフラワーポットをいただいた。


「来年は生け花以外も楽しみたいって言ってたから」


 って、耳ざといセンが提案したらしくて。

 色んなタイプのフラワーポットが大きな箱の中に詰めてあった。


 センは勘当されたとは言え、茶道名家の生まれ。

 さすがに、華も生ける。

 だから、あたしのセンスに近いのかな…



「で、これを男四人で買いに行ったわけ?」


 聖子が楽しそうに問いかける。


「売り場の女の子、可愛かったよな」


 陸ちゃんと光史が笑った。


「で、あたしからは、はい。これ」


「え?あっ、ありがとう」


 花の形のネックレス。

 聖子は、毎年あたしの誕生日に『花』の物をくれる。

 チューリップのインテリアスタンドとか、ひまわり柄のバッグとか。


「今年は、桜。あんた、好きだったよね」


「……」


「知花?」


「あ、うん。ありがとう」


 早速、ネックレスをつける。


「おーい、そこの男四人。手ぇ貸してくれー」


 ふいにロビーからお呼びがかかって。

 陸ちゃんたちは『何だ何だ』って言いながら、呼ばれた所へ向かう。


「何かな」


「あー、ツリーを一回り大きくするって、あれじゃない?」


「ふふっ。何だかクリスマスに全力投球ね」


「全くね。あ、知花、神さんよ」


「え?」


 聖子に言われてエスカレーターを見ると、千里ちさと朝霧あさぎりさんと大笑いしながら降りて来てる。

 …珍しいな。

 事務所で、はしゃいでる千里なんて。


「なんだか、ご機嫌ね」


 聖子もそう思ったらしくて、二人で顔を見合わせて笑う。


「お、早速いい物もらってんな」


 あたしに気付いた千里が、プレゼントを見て言った。


「なんや、プレゼント交換か?」


「こいつ、今日誕生日なんっすよ」


「はー、そりゃ、おめでとう。いくつんなった?」


「17です」


「17…若過ぎて眩しいな…で、千里からのプレゼントは?」


「用意してないんだから、余計なこと言わないで下さいよ」


「何っ、誕生日いうたら大イベントやんか!!プレゼント用意せんて、なんやねん!!」


 朝霧さんが、千里の首を締める。


「子供じゃあるまいし、いいじゃないっすか」


 千里も、負けずに朝霧さんの首を締め返す。

 …二人とも朝から飲んでたのかな…

 テンションが…いつもと違う気が…


「嫁の誕生日は盛大に祝わなあかんでっ!!」


「そうだそうだー!!最愛の妻の誕生日、ちゃんと祝えー!!」


 聖子までが千里を茶化して。


「…しゃーねーなー。知花」


「え?」


 千里に手招きされて、近付くと。


「誕生日、おめでと」


 って…頬に…キス。


「……」


 な…


 な…



「きゃーっ!!もっとしてーっ!!」


 固まったあたしとは裏腹に、聖子は大興奮。


「あはは、なんで聖子が興奮してんねん」


 周りにいた何人かの人が、驚いた顔であたしと千里を見てる。


「じゃー、続きは夜なー」


 千里と朝霧さんは歩き始めたけど、あたしは真っ赤になったまま動けなかった。

 こんな、こんな公衆の面前で…


 も…

 もう―――――!!



「あー!!貴重な場面に出くわしたって感じ!!」


 相変わらず、聖子は興奮気味。


「…何、それ」


 あたしは、うつむいて頬に手を当てたまま、エレベーターに乗り込む。


「だってさ、知花と神さんって事務所じゃほとんど話さないじゃない」


「別に意識して、そうしてるわけじゃないけど…」


「それが…あーっ、いいなあ、すごいなあ!!」


「聖子も、あずまさんと約束すればよかったのに…」


「いやよ。あたしは、自分から好きになった人じゃないと、絶対いや」


 よくわからないけど、聖子には何かポリシーがあるのね。

 東さんからの誘いどころか、今月に入って聖子には事務所内の男の人六人からお誘いがあった。

 でも、全部断わってしまったのよ。



「続きは夜って…どんなことが待ってるのかなー?知花ちゃん」


 聖子があたしの耳元でささやいた。

 あたしは、さっきの千里を思い出して…また、一人で赤くなってしまったのよ…。



 * * *




「…おまえの誕生日って、派手だよな」


 今朝、聖子にも言われた言葉。

 パーティが終わって帰ってきた千里が、部屋いっぱいに並んでるプレゼントを見て言った。


「…クリスマスに便乗してるから」



 あたしはバンドメンバーとダリアでパーティをして。

 帰った所を管理人さんに呼ばれて、おびただしい数のプレゼントを、台車を借りてまで運んだ。



「これ、なんだ?」


「銀燭セット、おじい様から」


「げ。趣味わりぃ…これは?」


「ベッドカバー、お義母様から」


「…うちの身内は…あ、これ桐生院のばあさんからだろ」


「え?どうして、わかったの?」


 おばあちゃまからのプレゼントは、帯。

 あたしは本当にたまに、だけど、着物を着る。


「なんだかんだ言って、あのばあさんはおまえのこと、一番よく知ってっからな」


「……」


 千里が、そんなこと言うとは思わなかった。

 それに、おばあちゃまがあたしを一番知ってるだなんて…



「はー…疲れた」


「お風呂入ったら?」


「事務所でシャワー浴びた。頭っからシャンパンかぶったりしたし」


「何したのよ」


 小さく笑いながら、プレゼントを整理する。


「…さて、寝るとするか」


 千里がゆっくり立ち上がった。


「おやすみ」


 どこに片付けよう。

 そんなこと考えながら立ち上がると、真顔の千里が部屋から言った。


「…知花、来いよ」


「え?」


「昼間の続き」


「……」


「ほら」


 ほ…ほら…って…

 千里は手を差し伸べたけど…

 あたしは…


「で…でも、ここ…散らかしたまま…」


 辺りを見渡して、挙動不審。

 だって…だって…!!

 …ああ、顔が熱い。

 きっとあたし、真っ赤だよね…


「明日でいーから」


「……」


 ああああ…

 これって…拒否権…ある?

 …でも…

 拒否したいわけじゃない。

 ただ単に…恥ずかしいだけ…


 …好き…って自覚して以来…

 あたし、千里と目が合うだけども…ドキドキしちゃってるのに…



「ほら」


 もう一度…手が伸びて来た。


「……」


 あたしは観念して…手を…


「えっ…」


 手を伸ばしたと思ったら、抱き上げられた。


「ちょっ…」


「誕生日、おめでとう」


「……」


 小さくキスされて…至近距離で…言われて…


「……あ…ありがと…」


 ひたすら照れた。


 もうダメだ。

 あたし…本当に…ダメだ。

 千里の事、王子様に見えちゃってる。

 これって、おかしいよね。

 だって、口にナイフを持つ男って言われてるのに…王子様だなんて…



「…今日から毎晩、ここで一緒に寝ようぜ」


 千里のベッドに降ろされる。


「…毎晩…」


 毎晩…?

 毎晩、千里と…寝るの?

 …それってー…


「…毎晩やるとは言ってない」


「……そ…そんな事…聞いてない…」


「ほんとか?困った顔してたぜ?」


「…困ってなんか…」


 千里の唇が、あたしの首筋を這う。


「…夫婦みたい…」


 あたしが小さく言うと…


「…………ふっ」


 千里は、あたしの胸に顔を埋めて…笑った。

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