18

「……」


 あたし、鏡の前で全身をチェック。

 前を見て…後ろを向いて、顔だけ振り向いて…


「……」


 どう…かなあ…



 お正月。

 今日もビートランドはお仕事…って言うか、年始の挨拶と…

 早速の宴。


 だけど、今日は千里のおじい様のおうちと、桐生院に年始の挨拶に行こう…って。

 …千里が。


 それであたしは…着物を着てみたんだけど…


「…緊張しちゃうな…」


 部屋を出てリビングへ。

 そろそろ帰って来…


 ガチャ。


「ただい…」


「あ、おかえりなさい」


「ま…」


 帰って来た千里は…ポカンとした顔。


「…なんで着物」


「おばあちゃまが誕生日に帯をくれたでしょ?」


「…ああ」


「あたし、着物全部実家に置いてるし…と思ってたら、父さんが持って来てくれたの」


「…へー…」


「早速着てみちゃった」


「……」


「似合う?」


「……」


 千里は無言であたしを上から下まで眺めてる。

 頑張って着たし…褒めてくれないかな…


「…まあまあだな」


 あたしの期待とは裏腹に、千里はそっけない感想。


「まあまあか…頑張ったのにな…」


 自分を見下ろして…少しだけ唇を尖らせる。

 千里って…着物とかより、露出の多い服の方が好きだったりするのかな…

 セクシー系…とか?


 だとしたら、あたし…ほど遠いな…


 少しガッカリしてると…


「…まあまあ…より、もう少しいいかな」


 千里が、渋々…言った。


「…そんな、無理して言わなくていいよ」


「いや、別に。無理なんてしてねーし」


「…ありがと。まあまあより、もう少しいいって事で…」


「……」


 首を傾げて千里に言うと。


「…似合う」


「……」


「……」


「……」


「すごく似合う」


 …やだ…

 すごく嬉しい…。

 すごく、すごく嬉しくて、つい…


「嬉しい」


 素直にそう言いながら、千里の腕を取った。


「もう出かけるよね?」


「…それで行くのか?」


「え?駄目なの?」


「…着物、動きにくいだろ。着替えろよ」


「……」


 唇を尖らせる。

 …せっかく着たのに…?



「…そうよね。動きにくいよね…」


 つまんない。

 つまんない。

 つまんなーい。


 着物姿で千里と出掛けたかったのに…


「…脱ぐのか?」


 あたしが帯に手をかけて部屋に向かってると、千里が言った。


「千里が着替えろって言ったんじゃない」


「…手伝う」


「一人で大丈夫」


「いいから」


「良くない」


「…脱がせたい」


「!!!!!!!!」


 もう!!

 そこ!?


「やだよ!!もう!!バカ!!」


 あたしは大声でそう言うと、部屋に入ってドアを閉めた。


 もう…!!

 千里って純粋じゃない!!

 やっぱりケダモノ!!


 あたしが帯をほどこうとすると。


『知花、そのままでいい』


 部屋の外から千里の声。


『着物で、一緒に行こう』


「…だって…千里、嫌そうな顔してた」


『…別に嫌なわけじゃない』


「それに、食事の支度したりするから…着物じゃない方がいいから」


『飯の支度もしなくていい』


「……」


『俺の隣に座ってればいいから』


 あたしは少し考えて…やっぱり、せっかく着たし…

 ゆっくりとドアを開けて。


「…良かった…これ着て千里と歩きたかったから…」


 足元を見たまま、つぶやいた。


「…コケんなよ?」


「コケないよ…」



 それからあたしが準備をしている間に、千里はタクシーを呼んで。

 二人で部屋を出た。


「ん。」


「え?」


 ふいに手を差し出されて千里を見ると。


「コケちゃいけねーからな」


「……」


 コケない。って…言ってるのに。

 だけど嬉しくて、あたしはその手をギュッと握る。


 それから…おじい様のおうちでお昼をいただいて、三人で記念写真を撮って。

 桐生院では、みんなと夕食を取った。


 忙しい千里が…

 見た目、あまり家族とのつながりなんて気にしなさそうな千里が…

 あたし以上に桐生院を大事にしてくれてる気がして。


 …あたし、もっと家族を大事にしたい。

 そう思う事の出来た一日だった。

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