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「見た?オリコン」


 朝、聖子が嬉しそうな顔でプライベートルームに駆け込んで来た。


「え?まだ見てない」


「一位よっ!一位~!あたしたち、日本でもやってけるのね~!」


「おいおい、見せろよ」


 聖子の剣幕に、陸ちゃんとセンが立ち上がってオリコンのコピーを眺めた。


「マジか…」


「これ…本物のコピーか?」


「本物に決まってるじゃない」


 あたしたちは、一月に国内デビューした。

 とは言っても、CD発売のみ。

 テレビに出ることもなければ、プロモーションビデオも作ってない。

 その上、前宣伝も何もしなくて。

 だけどアメリカでの業績がきいてか。

 CDショップの店頭には、かなりおすすめのコメントを書かれて置かれたらしい。


 ジャケットにはバンド名だけ。

 この事務所のミュージシャンは、ほとんどCDに顔を出さない。

 歌詞カードにも名前を書いてないから。

 あたしたちは丸っきり…素性不明のミュージシャン。



「ああ~…テレビに出て、七生聖子ななおせいこって名前を言い触らしたい~!」


 聖子がそんなことを言って、みんなが大笑いしてる。


「そんなことしたら、街歩けなくなるぜ?」


 光史が笑いながら言うと。


「いい。あたしは、チヤホヤされたいのよ」


 聖子は、威張ったようにそう言った。


 それにしても、嬉しいな。

 日本でも受け入れられたなんて。


「あたしたち、もしかして一生テレビとか雑誌に出ないまま?」


 聖子が真剣な顔でそう言うと。


「いや、今年はMV作るって言ってたぜ」


 あたしたちのプロデューサーの息子である光史が、貴重な発言をした。


「嘘」


「本当」


「じゃ、あたし『me,too』の時、ドレス着たいんだけど」


「おまえ…楽しそうだな」


 聖子は、すでに夢見心地で。

 それを、なんだかみんな楽しそうに見てる。



「そういえば、聖子。お姉さんの結婚式、いつ?」


 聖子には、九つ歳上のお姉さんがいる。

 今まで七生家の長女として、立派に働いてこられた愛さんは。

 なんと…聖子のお母さまのお友達で、あたしたちの行き着けのお店『ダリア』の店長さんの宇野誠司うのせいじさんと結婚されることになった。


 実に、17歳違い。



「…式は挙げないんだって」


「え?どうして?」


 聖子には…愛さんの他に、二人のお兄さんもいる。

 七つ違いのけんさんと、五つ違いの真実まさみさん。

 健さんも真実さんも、二十歳になってすぐ結婚された。

 そのどちらの時も、聖子は中等部だったのだけど…


『兄貴の結婚式、政界やデザイン業界から有名人がたっぷり来た』


 って、手紙に書いてあったのを覚えてる。


 七生財閥の長女ともなれば…愛さんの結婚式も、かなりの著名人が出席する場になりそうだけど…



「う~ん…どうなんだろう…?」


 聖子には珍しく、歯切れの悪い返事。

 すると…


「七生財閥の長女の結婚って、本当なら大騒ぎになる所だからな…ゴシップみたいになるのを避けて、色々配慮あっての事じゃないのか?」


 そう、光史が口添えした。


 …そっか。

 あたし達から見ると、顔見知りの素敵な二人の結婚は嬉しいばかりだけど…

 世間から見ると、親の友達と娘が結婚…って、ちょっとしたゴシップにはなってしまう…のかな…


「ま、いいんじゃない…本人達がいいなら…さ」


 相変わらず歯切れの悪い聖子に、まこちゃんが首をすくめる。

 きっと…お姉さんとの間に何かあったんだろうな…

 今度さりげなく聞いてみよう。



「それよか、みんな知ってるか?」


 そんな聖子の頭をポンポンとしながら、光史が声を潜めて言った。


「何?」


 つい、みんな身をかがめて光史に近付く。


ひとみさんと、あずまさん」


「瞳さんと、東さん?」


「結婚するらしいぜ」


「ええええっ!!」


 一斉に、声を張り上げてしまった。


「あたし、従姉妹なのに何も聞いてないっ!」


 聖子が、両手を握りしめて立ち上がる。


「しかも、何で?何で東さん!?」


 確かに。

 東さんは、ついこの間まで聖子に。


「映画行こうよー」


 なんて言って来てたのに。

 それに瞳さんだって…千里とは?



「なんか、いろいろ相談しあってるうちに芽生えたらしいぜ」


「いつ?いつ結婚?」


「さあ、春とは聞いたけど」


「なんてこと~!」


 相変わらず、聖子は興奮状態。


「聖子、悔しいのかよ」


 陸ちゃんが笑いながら言うと。


「何が」


 聖子は眉間にしわをよせて陸ちゃんを睨んだ。


「東さんが、いつの間にか瞳さんのものになってて」


「なんで、あたしが悔しいのよっ!」


「ぐはっ!」


 ニヤニヤしてた陸ちゃんは、聖子にコブラツイストを掛けられて。


「わかった!わかったからっ!聖子~!俺が悪かった~!」


 陸ちゃんの叫び声は、廊下にまで響いてしまった。

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