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「…何笑ってんだ」


 真っ白いドレス。


「…笑ってないよ」


 神父さんの声を聞きながら、あたしは口元をほころばせた。


 5月23日。

 千里の…誕生日。

 教会で、身内と仕事の関係者のみで、ほんのささやかな結婚式を挙げている。


「おまえの誕生日ばっか派手だから、俺の誕生日も派手にしてくれ」


 って。

 千里が子供みたいなことを言って…決まった結婚式の日取り。


 あたしは妊娠三ヶ月。

 そのうえ、なんと母さんまで。

 桐生院家は、ますます賑やかになりそう。



「…笑うな」


 千里があたしをチラリと見降ろして言った。


「…笑ってない…って」


「口元」


「…だって…」


「何」


「こんなに幸せなのに…緩まないわけないじゃない」


「……」


 本当…

 引き締めろって言われても…嬉しくて口元緩んじゃうよ。


 あの、マンションでの出会いから…


「…こんな事になるなんて…」


 つい口に出してしまうと。


「…何が」


 千里は『しょーがねーな』って顔。


「最初は偽装結婚だったのに…」


「……ああ」


 あたしが小さく言うと、千里は首を傾げて。


「まったくな…」


 って笑った。


「…でも、千里は結構最初から本気だった…って」


「誰が」


あずまさん」


「……」

 

 あたしが千里を上目遣いに見ると、千里はしばらく黙って…あたしの後頭部を抱えるようにしてキスをした。


「!!!!」


 おおおおって、どよめきがおきた。

 神父さんが咳払いなんてしてる。


 長いキスのあと、千里はふてぶてしく。


「誓いのキスなんて、待ってらんねーよな」


 って…鼻で笑った。



「とーしゃーん!!しゃくにも!!ちゅしてー!!」


「ろんもー!!」


 足元に駆け寄る子供達。

 振り向くと、額に手を当ててるおばあちゃまや、苦笑いされてる千里のお兄様達。

 口笛を鳴らしたり拍手喝采のビートランドのみんな。


 千里は咲華さくかを抱き上げると。


「咲華、お姫様みたいだな」


 そう言って、額にキスをした。


 あたしは華音かのんを抱き上げて。


「華音も王子様みたい」


 頬にキスをした。


 二人がバンザイポーズをして、みんながそれにメロメロになってるのをいいことに…

 千里は、あたしの肩を抱き寄せて…もう一度キス。


「…先に進めてもいいですか?」


 背後から、神父さんの咳払い。

 あたしと千里は顔を見合わせて、首をすくめた。




「二列目の方、もう少し中に寄って下さい。」


 青空の下での、集合写真。

 大切な人たちに囲まれて…幸せを噛みしめる。

 隣にいる千里は、以前より…笑顔が増えた。


「はーい、では撮ります」


 カメラマンさんの声に、みんなが一斉に笑顔になる。


「千里」


「あ?」


「誕生日おめでと」


「……」


 カシャッ。


「…新郎様~、出来れば真っ直ぐ向いて下さいね」


「千里、写真の時ぐらい我慢せえや」


「節操のない弟…」


「神さんはいつだって神さんだな…」




 出来上がった写真は…


 たくさんの笑顔の中で。

 唇を合わせたあたし達。


 ああ…もったいないほど…幸せだ。




 ねえ、千里。



 一生……



 あたしをこんな気持ちでいさせてね。







 8th 完

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いつか出逢ったあなた 8th ヒカリ @gogohikari

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