第35話 人間じゃなかった!
太陽が黒い山に隠れていきます。
太陽が緑の山を隠していきます。
真っ赤になった雲に鳥が飛んでいきます。
真っ黒になった鳥が雲に消えていきます。
ちょっと不安になってみぃちゃんを見ると、みぃちゃんもわたしを見ます。
くりんとした目で「にー」と言うので「大丈夫だよ」と答えます。
みぃちゃんも不安になったように、走ります。
わたしも置いて行かれないように走ります。
進んでいるんじゃなくて、逃げているみたいです。
もうずっと歩いているので、頭がぼーっとしてきて、影について行っているみたいになります。
でももうその影も、そのうちなくなってしまいます。
畑はずっと続いていて、でもちょっとだけ広い道に出ました。
カラスが鳴いています。
オレンジの空から、まるで耳のそばで鳴いているみたいにも聞こえて、すっかり黒くなった並んだ木が風でそわそわと鳴っています。
並んだ木は家を囲んでいました。
でもこの家はおじいちゃんの家ではありません。
また畑があって、その先にも同じように木が家を囲んでいます。
でもこの家もおじいちゃんの家ではありません。
うっかりするとみぃちゃんを見失いそうで、でも『毛まみれハーレム』のチョーカーの小さい鈴がシャンシャンと鳴って、目が光っているので、わたしもブラウスの胸につけたプリキュワの光るステッカーがぼうっと光っているのを確かめました。
道路の電気にパッと明かりがつきました。
わたしたちが通ったからついたのかな。
電気はこの先にぽつぽつと続いていて、それが道なんだとわかります。
電気がなければきっと、道だとわかりません。
いつの間にか畑がなくなってきて、家が並ぶようになっていました。
道路に人はいないけど、家にも明かりがついていくのを見ていてほっとしました。
「今日はどこで寝ようかな」
「にー」
わたしは前を見て、びっくりしました。
電気の下におばあさんがいて、こっちをじーっと見ていたからです。
おばあさんはただわたしを見ていてまったく動きません。
電気の明かりに照らされて、暗い道におばあさんが生えてきて、きのこみたいに立っています。
動いていたらいいんだけど、動いていないのでこわくなりました。
でも暗い道を戻るわけにも行かないので、おそるおそる歩いて行くとおばあさんはまだずっとわたしを見ています。
わたしは、おばあさんが人間でありますようにと願いながらあいさつをしました。
あいさつをしたら、人間だからです。
「こんばんは」
おばあさんはなにも言いません。
動いていないんだけど、わたしたちが前を通ると、首だけ動いてずっとこっちを見続けています。でもなにも言ってきません。首から下は動いてもいません。
わたしはこわくなって、走りました。みぃちゃんも走ってついて来ます。
「人間じゃなかった!」
「にー!」
しばらく走ってうしろを振り返ると、まだおばあさんは電気の明かりの下で立っていて、動かずにじーっとこっちを見ているので、見えなくなるまで走りました。
そういえば動物園にあんな鳥がいたなあと思いだしました。くちばしが大きくてじっと動かない大きい鳥です。
あのおばあさんは動物園から逃げてきたのかな。
それはそうと、わたしはもうへとへとです。
足の裏は痛いし、ひざはふわふわするし、肩もくたくただし、二円しかないし。
真っ暗だし、人間はだれもいないし、風の音だけだし、お腹もすいた。
お風呂に入りたいし、お尻はかゆいし、おじいちゃんの家には着かない。
髪の毛はベタベタするし、お父さんとお母さんに会いたいし、家に帰りたい。
畑は通りすぎて家ばっかりになったけど、お店はありません。車も走っていません。建物の明かりもないので、道路の電気がなければ真っ暗です。ここはどこだろう。
ひょっとして道を間違ったのかもしれません。
ぜんぜん違う反対の方向に来てしまったのかもしれません。
おじいちゃんの家はどこだろう。
わたしはいなかに行きたいのに、ここはなにも見えません。
次の明かりまで行けば、なにかあるかもしれないと思ったけどなにもありません。
また次の明かりを目指します。
それでもなにもありません。
次の明かりを過ぎると、しばらく真っ暗でした。
ヒュウっとほっそりした風が通りすぎます。
明かりと明かりの間の薄い明かりのなかにブロックを見つけました。
ちょうど座れそうな高さです。
みぃちゃんはそのブロックにぴょんと飛び乗ったので、わたしも座ることにしました。
お尻がひんやりします。
真っ暗の中にぽつんと、わたしとみぃちゃんだけがいます。
ひざを曲げると、もう立ちたくなくなりました。
歩いているときよりも足の裏がジーンと痛くなります。
足の裏が痛いので足首を伸ばしてみると、固まったみたいな足首がコリっと鳴りました。
太ももとふくらはぎも痛くて、動かそうとしても動きません。
泣いたら駄目だと思って上を向きました。
下を向いたら、みぃちゃんに見られてしまうからです。
いっぱいの光が目に飛び込んできました。
光の線が重なって輪っかになって、別の光と合わさってもっと大きな光になって、目にいっぱいのキラキラが広がります。
涙が止まると、それは星でした。
空は真っ暗ではありませんでした。
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