第36話 宇宙人だ!

 星空を眺めていると、みぃちゃんがひざの上に乗ってきました。


 ビーズを広げたみたいな光がキラキラしています。

 みぃちゃんの目もキラキラしています。

 わたしの目もキラキラしているのかな。


 たくさんの星を見ていたら、見ている間はこわくならないことに気づいて、ずっと見ていることにしました。でもこれは首が痛い。


 やっぱりたまに下を向いて首を休ませて、また上を向きます。


 いつもの夜は反対で、空は暗くて地面は建物とか車で明るいのに、いまは空が明るくて地面のほうが真っ暗です。


「ここは空の世界なのかなあ」

「にー」

「あそこにみんながいるのかなあ」

「にー」

「お腹すいたねえ」

「にー」


 わたしは『ちゅるる』がもう一本あることを思い出して、リュックサックから最後のちゅるるを手探りで出しました。


 暗くて見えないので『なかよろし』の付録の『湯けむりキス王子』のペンライトも出しました。小さな光だけど、ひざに置いてちょっとは見えるようになります。


 細いちゅるるを取り出して袋を開けると、みぃちゃんも気づいたみたいで鼻を近づけて「ちょうだい」と言ってきます。


 わたしはあんまり見えない中で、ゆっくりちゅるるを絞っていきました。

 みぃちゃんはむしゃむしゃおいしそうに食べるから、わたしはそれだけがうれしくなりました。


 みぃちゃんはお尻の下にペンライトを踏んでいるので、みぃちゃんのお尻が光っているように見えて、ちょっとおかしくなりました。


 はんぶんくらい食べると、みぃちゃんは食べるのをやめてこっちを見ました。

「食べないの?」

「にー」

「ぜんぶ食べていいんだよ」

「にー」


 みぃちゃんは手で、ちゅるるをにぎっているわたしの手を押しました。

 まるでわたしに「食べて」と言っているみたいです。


「みぃちゃんは優しいねえ」

「にー」


 せっかくなので、わたしも食べてみようと口を近づけました。


「くさい!」


 ゼリーみたいかなと思ったらやっぱりちゅるるがくさかったので、わたしは思わず笑ってしまいました。

 大声で笑うと、みぃちゃんはわたしの手をペロペロして、またちゅるるを食べ出しました。

 みぃちゃんが食べているのを見て、なんだかもっとおかしくなってきて、お腹が痛くなるくらい笑いました。


 ちゅるるを食べ終わったみぃちゃんは、わたしのひざに立って、ほっぺたをペロペロなめてきました。なんだかザラザラしてちょっとだけ気持ちいい。ちょっとだけだけど。あとみぃちゃんの口がちゅるるくさい。


 あまりにくさくて笑っていると、さびしくなくなってきました。

 わたしの笑い声は、夜の中を響いて行きます。


 みぃちゃんの背中からしっぽまでつるりとなでると、みぃちゃんはひざに丸まりました。


「明日こそは、おじいちゃんの家に行こうね」

「にー」


 どこまで歩くかわからないけど、みぃちゃんと一緒ならどこへでも行けます。

 ここがどこかわからないけど、でもここまで来たんだから。


 明るくなって、お日さまが顔を出して、もしまた海がキラキラしていたら元気が出てきて、また歩いて行ける気がするのです。


 そんな勇気が出てきたので、本当はヘロヘロなんだけど、またがんばろうと思いました。


 すると、そう思ったときでした。


 明かりが見えます。

 いくつも明かりが見えて、動いています。


 星かなと思ったけど、それよりも強い光で、空ではなくて地面を歩く明かりです。


 光がそれぞれに動いていて、そこから声も聞こえました。


「おーい」

「そこにおるんか?」

「聞こえたら返事をせい」


 なん人もの人の声です。わたしの名前を呼んでいます。


「おったぞ」

「あそこに座っとる」

「よかった、見つけたか」


 なんだろうと思っていると、いくつかの明かりは近づいてきて、わたしを照らします。

 まぶしくて目をつぶって、手で顔を隠しました。


「けがはないか?」

「腹へったろう」

「おーい、見つかったぞ」


 ひょっとしてわたしを探していたのでは。もしくは宇宙人にさらわれるとか。


「みぃちゃん、宇宙人だ」

「にー」

 宇宙人なら逃げようとしても、きっと追いかけてつかまるし、それにもうヘロヘロなので走れません。歩くのは出来るかもしれないけど。それにちょっと眠いし。


 明かりは懐中電灯で、わたしの持っている『湯けむりキス王子』のペンライトよりも強い光です。

 わたしを探していた人たちは、みんな笑顔になって、なにやらわたしの名前を呼んではよろこんでいます。

 わたしはこの人たちの名前をしらないのに。あとできれば、みぃちゃんの名前も呼んでほしいなあと思いました。

「みぃちゃん!」

「にー!」

「これが、みぃちゃんです!」


 みんなに教えてあげました。すると人がどんどん集まってきて、そのうちのお兄さんがわたしの前にしゃがみました。

「みぃちゃんっていうんだね」

「はい」

「ずっと一緒だったの?」

「はい」

「じゃあ、二人ともだいぶ疲れたんじゃないかな」

「ちょっとだけつかれたけど、でもがんばります」

 すると、となりのおばさんもしゃがんできて、わたしの頭をなでました。

「もうがんばらなくていいのよ」


 どういうことだろう。


 そう思っていると、どんどん人が集まってきます。


 懐中電灯だらけになって、なんだかお祭りみたいにもなりました。

 それにみんなわたしを心配したり、電話で連絡をしていたりしていて、わたしはわけもわからずに混乱していました。


 そして、わたしを呼ぶ声が聞こえます。大きな声で近づいてきます。もちろん聞いたことがある声です。

「おじいちゃん!」

「ああ、よかった、よかった!」


 おじいちゃんはわたしの頭を包むように抱きしめると「よかった、よかった」とずっと言っています。目には涙がキラキラして、きっと星よりもきれいなんだと思いました。


「おばあちゃんは家で待ってるからな、帰ろう」

「おばあちゃんが待ってる!」

 わたしはおどろきました。ずっと目指してきたおじいちゃんの家の近くまで来ていたのです。

 おじいちゃんは、わたしを探していたみんなにお礼を言ってお辞儀をして回っています。

「ええわ、ええわ」

「見つかったんだから、もう解決や」

「早くお孫さんを休ませたり」


「ハシビロばあさんのおかげやな」

「あのばあさんが連絡くれたんか」

「集落の入り口で見かけたって来てな」


 なんだかしらない間に、にぎやかになって、みんなもそれぞれ帰って行きました。


「歩けるか?」

「うん!」

 わたしは座っていたブロックからみぃちゃんみたいにぴょんと立ち上がると、ひざに力が入らなくて、しゃがんでしまいました。みぃちゃんは着地に成功してるけど。


 おじいちゃんの背中はあったかい。おっきくて、雲にのっているみたい。

「がんばって来たんやなあ」

「うん」

「にー」


「心配しておじいちゃんも転がりそうやったわ」

「うん」

「にー」


「おばあちゃんのごはんが待ってるからな」

「うん」

「にー」


 ゆっさゆっさとおじいちゃんのおんぶが気持ちよくて、ずっと乗っていたい。

 みぃちゃんにも乗せてあげたいなあと思いながら、おじいちゃんの家に着きました。


 門の前で、おばあちゃんが待っていました。おばあちゃんは、わたしの名前を呼ぶと走って来ました。

「けがはないか?お腹すいたやろ?早よ入り!」

「みぃちゃんがいるから大丈夫だよ」


「猫な、みぃちゃんやて」

「みぃちゃん、可愛い名前やね」

「めっちゃなついてんねん」

「大事なともだちなんやね」


 わたしは眠くなって、安心して、おじいちゃんの背中とおばあちゃんの声でそのまま眠ってしまいました。

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