第37話 みぃちゃんがとけた!

 お布団はふかふかで、おじいちゃんとおばあちゃんの間で寝ました。もちろんみぃちゃんも一緒で、わたしの腕枕で眠りました。


 おじいちゃんの家には、たまに家族で遊びに来るので、パジャマが置いてあります。プリキュワの光るパジャマです。


 目が覚めると朝で、いつの間にかこのパジャマに着替えていて、あったかくてやわらかい布団だったので、もっと寝ていたいなと思ったけど、朝ごはんのいい匂いがしたのと、みぃちゃんが鼻をひくひくさせて匂いにつられて布団から出て行ったので、わたしも布団から出ることにしました。


 やっぱりここはおじいちゃんの家です。


 見たらわかるんだけど、匂いでもわかります。


 たたみのお部屋に真っ白な障子があって、障子は閉めていても明るいので好きです。

 おじいちゃんの家は、夜はちょっとだけこわいこともあるからいつも遊びにくるときはいしょに寝ます。


 あとたたみもなんかふしぎな匂いがするけど、今はもう好きになりました。最初はあんまり好きじゃなかったんだけどね、ころがると楽しい。


 バサバサッと音がして、それから「むむむ」と言うおじいちゃんの声が聞こえました。

 声はリビングからです。いい匂いもそこからするので、みぃちゃんがなにか悪戯をしたのかなと思って行ってみたらやっぱりでした。


 みぃちゃんは、おじいちゃんの読んでいる新聞紙に飛び乗ってはガサガサと引っかいて、ジャンプして部屋中を走り回ってはまた新聞紙に飛び掛かって大暴れです。


「むむむ」

 おじいちゃんはキョロキョロしながら目でみぃちゃんを追いかけます。でもみぃちゃんはすばしっこくてなかなか止まりません。


「おじいちゃんおはよう」

「おお、おはよう。よく眠れたかい?」


「おばあちゃんおはよう」

「あらおはよう。朝ごはんはもうすぐだよ」


 わたしはおじいちゃんとおばあちゃんが大好きです。


 だから、みぃちゃんもおじいちゃんとおばあちゃんを好きになってもらいたいし、おじいちゃんとおばあちゃんにもみぃちゃんを好きになってもらいたい。


「みぃちゃん、おはよう!」

 わたしはつくえの下にもぐったみぃちゃんをつかまえようと手を伸ばしました。

 みぃちゃんはビクッてして逃げようとしているけど、わたしもつくえの下にもぐっていくと頭と頭がごっつんこして「にー」とおはようのあいさつをしました。


「お風呂がわいてるから、入ってきなさい」

 わたしは「はーい」と返事をして、お風呂に入りました。みぃちゃんも一緒です。


 シャワーをあびるとみぃちゃんは「ふぎゃ」と言ってジャンプして、バスタブのフタに乗りました。「あとで洗ってあげるからね」と言っても、なんだかいやそうな顔をしています。お風呂がきらいなのかな。


 みぃちゃんを洗おうとしたら、みぃちゃんは「ふぎゃー」って逃げます。どうしたものか。


 しかたないので、お風呂につかりました。

 みぃちゃんと一緒に入りたいけど、みぃちゃんは小さいので足がつかなくておぼれるのがこわいんだなと思って、わたしはバスタブに入ったけど、みぃちゃん用に洗面器にお湯を入れてあげました。

「肩までつかるんだよ」

「にー」

 そう言ってみぃちゃんは、洗面器のお湯をペロペロなめて飲み始めました。

「飲むんじゃなくて、入るの!」

「にー!」

 わたしとみぃちゃんの声がお風呂に響きます。


 わたしはいろいろ考えて、洗面器にシャンプーを入れて泡立てて、それでみぃちゃんを洗うことにしました。

 きれいにしていたほうが、おじいちゃんとおばあちゃんにも好かれると思ったからです。


「きれいにするの!」

「にぎゃー」

「デビューなんだから!」

「ふぎゃー」

「泡もながすの!」

「にぎゅー」


 お風呂はもうてんてこまいです。

 みぃちゃんはせまいお風呂場の中を逃げて逃げて、つるっとすべってバスタブに落ちて、ひっしに泳いでフタの上に乗りました。


「そんなばかな!」


 みぃちゃんがほそい。ほそくなってる。


 みぃちゃんは毛が生えててふかふかしているのに、お風呂に入ったらやせて別人みたいです。顔はそのままなのに体がほっそりしています。


「みぃちゃんがとけた!」


 わたしはみぃちゃんが、チョコレートみたいにお風呂にとけたのかと思いました。

 そして思い出しました。この間、わたしが数字のチョコレートを食べさせたからだ。

 あのチョコレートを食べさせたらいけないと教えてくれたお姉さんの言った通りだ。


「みぃちゃんごめんね」


 みぃちゃんがもとに戻らなくなったらどうしよう。棒アイスみたいにぜんぶとけてなくなっちゃう。棒だけがのこったらどうしよう。


 わたしがどうしようと心配していると、みぃちゃんはぶるぶると体をふるわせて、ぬれた体を振りました。


 すると、元に戻りました。


「戻った!」


 みぃちゃんは毛が元通りになりました。びっくりした。でもよかった。


「みぃちゃんはお風呂に入りたくないんだね」

「にー」


 今みたいにほっそりした姿になるのが恥ずかしいんだなあと思って、もうみぃちゃんをお風呂に入れるのはあきらめました。


 するとみぃちゃんは、空になった洗面器に手と足を入れると座りました。

 洗面器にぴったりすっぽり丸まったみぃちゃんがおさまりました。


 わたしはおうちで帽子を投げて遊んでいたらお父さんの頭にすっぽりと入ったことがあります。そのときみたいにきれいに入ったのでおかしくて笑いました。お母さんも「あそこは十点」と言ってお父さんに帽子を投げたけどなかなか入らなくて、わたしの勝ちでした。


 お風呂から上がってバスタオルで体をふいても、まだみぃちゃんは洗面器です。

「きれいになったね」

「にー」

 わたしは洗面器ごとみぃちゃんを運んで、おばあちゃんを呼びました。ドライヤーを使いたかったのでコンセントをさしてもらうと、洗面器に入ったみぃちゃんを見ておばあちゃんは「あら」と言いました。


 おばあちゃんがドライヤーを洗面器みぃちゃんに当てると気持ちよさそうに目がうっとりしています。

 わたしは自分の髪にもドライヤーを当ててもらうと、みぃちゃんはおばあちゃんに手をちょんちょんとして「にー」と「もっともっと」と言ってくるので、わたしの髪がかわかせない。


 交互にドライヤーを当ててもらって、もうかわいたのでドライヤーを片付けると、みぃちゃんは洗面器を出て、おばあちゃんの足ににぴったりくっついてはなれません。

 みぃちゃんはおばあちゃんを好きになったみたいです。

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