第16話 ついこんなに買ってしまった

「みぃちゃんものどがかわいたよね」

 わたしはつい言ってしまいました。

 のどがかわいたのは本当だけど、それを言ってしまったら本当にのどがかわくと思ったからです。


 こくどうを、ちゃんと右側を歩いているとずっと歩いていてそろそろくたびれてきました。車だとたいてい、うしろの席でずっと海を見ていて目が覚めたらおじいちゃんの家に着いているので、このまま歩いて行ったらすぐに着くと思ったけどなかなか着きません。


 さっきから左のほうはずっと海で、右のほうはずっと山が続いています。たまに歩道の白線がせまくなっていて、そういうところはみぃちゃんを抱っこして歩きます。

 でも前から車が来て、けっこう近くをものすごい速さで通り過ぎて行くのでびっくりして、そういうときはこわいです。白線からでないようにとても気をつけないといけません。


「まだ歩くのかなあ」

 みぃちゃんも歩くのに飽きたのか、たまに山のほうに入って草をバリバリしてまた戻ってきます。みぃちゃんのためにもここは歩ききらないとなと気合をいれました。


「でもいつ着くのかなあ」

 ひょっとして車じゃないと道路は進まないのでは。

 そんなまさかと思って考えたくはありませんでした。いつも学校へは歩いて行くので、歩いたら進めるはずです。


 もしかして、こくどうだから車じゃないと進めないのかな。


 そんなことに今さら気づくなんて。


 ため息をついたら、向こうにキラリとなにか見えました。歩いて行くと看板でした。


 近づいて見上げて見ると、ぞうが描いてあります。『このさき二キロメートル』と書いています。そして右に進む道路があります。

 これは動物園の看板です。

 お父さんとお母さんとも行ったし、遠足でも行ったことがあるので、なんだかわくわくしてきました。

「こっちに行こうか」


 みぃちゃんはまっすぐ進むつもりだったで、ちょっと止まって考えていました。でもわたしが右に曲がって進むと「にー」って言ってあとをついて来ます。

「こっちはねえ、けんどうなんだよ」


 けんどうだったら、車じゃなくても前に進めるかもしれません。

 もちろん動物園には行きたいけど、そんなひまは今はありません。でも動物園に着いたら行ってみようかなと思いました。

「みぃちゃんは動物を見たことある?」

 みぃちゃんは首をかしげました。

「動物は大きいんだよ」

 みぃちゃんが動物を見たらびっくりするだろうと思って、教えてあげます。

「でも、みぃちゃんより小さい動物もいるから大丈夫だよ」

「にー」

 みぃちゃんを安心させようとしたけど、みぃちゃんは走って行きました。

「大丈夫だよ!」


 みぃちゃんを追いかけて走ると、古そうな木の家がありました。

 みぃちゃんは入り口で止まって中をのぞいています。中をのぞこうとして、窓に映った自分を見ておどろいてななめにジャンプしました。そんなことができるなんて。とにかく入りたがっています。


「勝手に入っちゃ駄目だよ」

 でも、家かと思ったけど中には商品が並んでいます。そして古い木の家だけど、前には自動販売機とガチャガチャがあります。お店なのかな。


 そーっと入り口を開けたら、すき間からみぃちゃんがにゅるにゅる通って行きました。わたしもちょっとのすき間から通れるかなあと入ってみたら頭をごつんと打ちました。

 ちゃんと人間サイズに玄関を開けて中に入ってみると、なんかちょっとひんやりしてうす暗くて、あとおばあちゃんっぽい匂いがしました。おばあちゃんは大好きです。


 みぃちゃんが入りたがっていた理由がわかりました。

 ここはお菓子やさんです。


 おじいちゃんの家はリフォームしたので新しいけど、むかしは古かったそうなので、このお店はまだリフォームしていないなと思いました。でも古い家はなんだか好きなのでリフォームしなくてもいいんじゃないかなと思います。


 みぃちゃんはお菓子の棚にジャンプして乗ってしまって、急いで抱っこして下ろすと、またジャンプして商品の上に乗っかったので、また抱っこして下ろしたら、またジャンプして棚のうえに上ろうとします。みぃちゃんは抱っこがいやなときは背中がトンネルになるけど、これはいけません。

「駄目ってば!」

 みぃちゃんをなんとか下ろしたら「にふー」って言ってお店を走り出して玄関のガラスにぶつかって「ふにっ」って叫んでまた走って隅っこで手をなめていました。どのお菓子を買おうかな。


 いろんなお菓子があるけれど、どれも見たことのないお菓子です。おいしそうだけど、へんなものもあります。ツボみたいな透明な箱に入ったイカとか。

 他にもいろいろ小さいお菓子もあって見ていると、奥からおばあさんが出てきました。

「いらっしゃい」

 おばあさんはにこって笑っています。


 わかった、ここは魔女のお菓子やさんだ。このおばあさんが魔女かどうかはわからないけど、見たことのないめずらしいお菓子を売っているのでわくわくして選びました。


 さくらんぼのきれいな小さい四角がケースに入っているのと、数字に入ったチョコと、スティックのゼリーは黄色を取りました。それとおにぎりのせんべいと小さいわたがしです。


 しまった、ついこんなに買ってしまった。


「八十円やね」


 電卓をぽちぽちしておばあさんはそう言ったけど、こんなに買って八十円のわけがないと思ったので、間違いじゃないかと思って「八十円ですか?」と聞きました。もし違ったらおばあさんがそんをするからです。

 おばあさんはビーズの並んだおもちゃを取り出して、遊びだしました。

「八十円やね」

 もういちど言ったので、間違いないのかなあと思って八十円を出しました。おばあさんは買ったものをふくろに入れてくれて「ありがとね、また来てね」って言いました。


「行くよみぃちゃん」

 わたしはまた来ようと思いました。

 みぃちゃんは小さいボールをほしそうに見ていて、わたしも買ってあげようかなと思ったけど、道路にころがってなにも知らないみぃちゃんが追いかけて車が来たら大変なことになると思って買いませんでした。こんど来たときに買ってあげようと思いました。

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