第8話 百四十円でーす

 やっぱりお腹がすいたので、みぃちゃんを抱っこしたまま緑のコンビニに入りました。

 みぃちゃんは『ちゅるる』がまだあと三本あるので、わたしもなにか買って一緒に食べようと思ったからです。

 ちゅるるが百四十八円だったので、わたしもそれくらいのを探しました。

 キャットフードのコーナーは小さいのに、人間用ごはんはたくさんあるのでどれにしようか迷います。節約しているので安いものでいいやと、安そうなパンとかおにぎりを探したけど、まったく見当たりません。


 よく探していると、他のお客さんのカゴが顔にぶつかりそうになって尻もちをついてしまうと、店員さんが来て「大丈夫?ケガはない?」って言ってくれました。

 店員さんはみぃちゃんを見て「キャットフードを探してるの?」って聞いてきたので「おにぎり下さい」って答えました。みぃちゃんを見たときに「可愛いね」って言ってくれるんじゃないかとちょっとだけ思ったけど言われませんでした。

 でも、この店員さんはきっと仕事ができると思って安心してついて行くと、お弁当のコーナーに着きました。ここはさっき見た、って言おうとしたら、店員さんは上の棚を指さして「ここだよ」って言います。見えませんよ。


 わたしは、しゃけしか思い浮かばなくて「しゃけ」と言うと、店員さんはしゃけのおにぎりを取ってくれました。お寿司屋さんかよって思いました。

「他に買うものない?」

 わたしは首を振りました。商売上手だなあと思っていると店員さんはレジに行ってピッと値段ビームをおにぎりに撃ちました。

「百四十円でーす」

 言い方が子供っぽいなあと思いました。

 わたしはレジの台にみぃちゃんをひとまず置いて、リュックサックから財布を出して、百四十円を払いました。

「ふくろはいりますか?」

 いっしゅん、ドキッとしました。そろそろ抱っこに疲れたので、ふくろをもらったら中にみぃちゃんを入れようとしたのがばれたと思ったからです。

 わたしが困っていると「いちおう入れておきますね」と言ってビニールぶくろにみぃちゃんを、じゃなかった、おにぎりを入れました。

「レシートは、いりますか?」

 また困りました。レシートってなんだっけ。

 お父さんはなんて言ってたか思い出しました。

「十枚ください」

「え?」

 店員さんのびっくりする顔を見て、間違えたと思いました。

「やっぱりいいです」

 恥ずかしくなって、みぃちゃんを連れて早足でお店を出ようとしました。自動ドアに立っても開かなくて店員さんが来たら開いたのでもっと恥ずかしくなって逃げるように走りました。

 お父さんはそう言って『戦闘機がーるず』のくじを引いていたのに。


 コンビニから走ってきたのでさっきまで歩いていた道がわからなくなりました。それと早くしゃけおにぎりを食べたい。

 どこで食べようかなと考えていると、けんりつかがくかんがありました。

 丸くて四角い建物だし、前に遠足で来たことがあるのですぐにわかります。わたしは知っている建物を見つけて少しほっとしました。


 けんちょうみたいに光ってる窓がまぶしくて、敷地に入って駐車場のすみっこに行きました。地面にブロックが置いてあるので座れるからです。

 本当は車が座るところですが今は車がないので、わたしとみぃちゃんが座りました。よくお母さんが運転しているとバックをするときにぶつかって、わたしが「わあ」って言ってしまうブロックです。もし車が来たらわたしとみぃちゃんは小さくて見えなくてはさまれてしまうので、そのときはみぃちゃんを抱っこして逃げようと思いました。


 みぃちゃんを下ろしてブロックの上に座らせると、みぃちゃんはすぐに跳び下りました。わたしに「三角形になれるよ」って言ってるみたいに、手と背中を伸ばしてとがった方の三角定規みたいになると、とことこ歩いたり手をなめて顔をふいたり急にジャンプしたり大忙しです。

「もうちょっと落ち着きなさい」

 みぃちゃんもかがくかんに入りたいのかなと思ったけど、そんなひまはありません。遊びで来ていたら入りたいけど。おじいちゃんとおばあちゃんの家に着いたら、みんなで一緒に遊びに行きたいです。そのときは別にかがくかんじゃなくてもいいけど、みぃちゃんに電気にょきにょきボールを触らせたらびっくりするだろうなあ。


 わたしはブロックに座って、リュックサックから『ちゅるる』を取り出しました。まだあと三本あるので、一本を開けるとみぃちゃんは鼻をひくひくさせてわたしを見ています。ひとまずちゅるるを置いて、自分の分のしゃけおにぎりをコンビニのふくろから出すと風で飛びそうになったのでリュックサックをおもりにしました。

 そういえばのどが渇いたなと思ったところに赤い自動販売機が見えたので、財布を持って行きました。


 赤い自動販売機の横にもうひとつ白い自動販売機があって、こっちが子供用だなと気づきました。下の方にお金を入れるところとボタンがあったからです。ちょっと緊張しながらお金を入れました。『お茶くれい』を買おうとしたけど、なんてこった。どのボタンかわかりません。

 自動販売機の『じどう』と、お母さんがもらっているじどうてあての『じどう』が同じことにヒントがありそう。

 わたしはみぃちゃんに助けてもらおうとみぃちゃんの方を見ると、のん気にちゅるるをなめていました。


 テレビでよくあるように、間違えてボタンを押してしまって爆発でもしたら困るので、どうしたものかとやっぱり買うのをあきらめました。入れたお金は、ここで待っていれば返してくれるのかなと待つことにしました。

「みぃちゃん待っててね」

 ちゅるるをなめながら留守番しているみぃちゃんに言うと、うしろから「どうしたの?」と聞こえて、まわりが真っ暗になりました。暗くなったのもビクッてなったけど、振り返ると大きな影に太陽が光っていてその人の顔が黒くなっていたので、こわくなってちぢこまってしまいました。

「買いたいのかな?」

 おじいさんの声で、よく見ると白いひげのついたおじいさんです。

 あ、見たことある。

 このけんりつかがくかんのかんちょうさんです。

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