第9話 フライドチキンにされるかもしれない

『フライドチキン屋さんの人に似てるよね』

 遠足でまえに来たときに、友だちとそう話して面白かったことを思い出しました。

 白いひげをつけて、白い髪の毛だからです。それと服も。白が好きなんだなあときっとみんなそう思いました。


「なにが飲みたいのかな?」

「ボタンがわからないけど、『お茶をくれい』がほしいです」

 先生に『フライドチキンの人じゃなくて、かんちょうさんだよ』と怒られたけど、先生も笑っていたので先生もそう見えるんだなと思いました。


 ガコンっていって『お茶をくれい』が出てくると、かんちょうさんは取り出してくれました。

「ありがとうございます」

 ちゃんとお礼は言ったのに、かんちょうさんは白いひげをなでながら黙っています。

「もしかしてひとりで、来たのかな?」

 そう聞かれて、あれ?って感じました。みぃちゃんとふたりです、って答えようとしたけど、なんだかいやな予感がしました。

 メガネがまっ白に光っていたからです。

 ひょっとしてかがくかんのかんちょうさんって、悪いかがくのボスじゃないのかとちょっとうたがいました。

「たくさんの人と来ています。もうすぐみんな来ます」

「ふむ、たくさんの人と。それは楽しそうだね」

「はい」


 わたしはフライドチキンにされるかもしれません。


 片手にしゃけおにぎり、片腕にお茶をくれいをにぎりしめて、みぃちゃんと逃げようと思いました。

 あやしまれないように、ふつうの歩き方でブロックに戻って、リュックサックにぜんぶ詰めます。また『なかよろし』を読むひまもない。食べかけのちゅるるもリュックサックに入れたので、みぃちゃんは「にーにー」といつもより強く声を出しています。歯も見えます。

 リュックサックを背負って、みぃちゃんを抱っこして、かんちょうさんにお別れのあいさつを言おうとしたら、かんちょうさんは電話をしながらこっちに近づいてきます。


「みんなが来るまで、中で待っていようか」

 かんちょうさんはかがくかんの中を指さします。みんなが来るって言ったのはうそだけど、前に来たとき楽しかったので、ちょっと行ってみたくなってしまいました。

「はい」

「猫は、どうしようか」

 かんちょうさんはそう言うと、電話で「ゲージみたいなのあるかな」と聞いています。

 ゲージってなんなのかよりも、わたしはフライドチキンのことを考えていたので、お腹がグーって鳴りました。

 聞こえたかなと恥ずかしくなってお腹を押さえると、みぃちゃんが腕をすりぬけて走って行ってしまいました。そっちはかがくかんじゃなくて道路です。

 わたしもいそいで追いかけました。

 やっぱり途中でちゅるるを取られたから怒ったのかな。わたしもみぃちゃんと同じように植木のすき間から道路に出ました。そこは大きい道路で、車の音がはげしくて、みぃちゃんがひかれると思うと早く捕まえなければいけません。


 みぃちゃんは歩道と車道の間の植え込みにもぐったので、わたしももぐったけど、とちゅうでそれ以上進めなくなって、みぃちゃんだけするすると茂みの中を進んで行きます。小さいといいこともあるんだなあと感心しました。

「そうだ、ちゅるるだ」

 わたしはリュックサックから食べかけのちゅるるを出すと、見えなくなったみぃちゃんは、またすぐに戻ってきました。やっぱりとちゅうで取り上げられると怒るよね。

「ごめんね、みぃちゃん。ゆっくり食べていいからね」


 するとかんちょうさんも追いかけて来て、そのまま植え込みの中のわたしたちに気づかずに歩道を捜しています。

 お母さんもゲームをしているときにお父さんに急にそろそろやめなさいと言われて「相方がーコインボスがー」とさわいでいます。

 夢中になっているとちゅうでやめさせるのはよくない。


 みぃちゃんはちゅるるをおいしそうに食べているので、わたしも少しずつスティックを絞ってみぃちゃんの食べる早さに合わせてにゅるにゅるします。コツを覚えてきました。植え込みの茂みはちくちくしてかゆいけど、みぃちゃんのために我慢しました。


 みぃちゃんが食べおわったので、わたしもしゃけおにぎりを食べることにしました。やっとごはんが食べれる。今日は忙しいなあ。


 しゃけおにぎりを開けると、みぃちゃんもわたしの手に寄ってきます。

「食べているときはジャマしちゃ駄目なんだよ」

 あんまり怒るとまた逃げると思って、優しくしずかに注意しました。それでもみぃちゃんはしゃけおにぎりをほしそうに手を伸ばしてくるので、少しだけちぎってあげたりしていました。食いしん坊で甘えん坊だけど、そういうところも好きです。


 お腹いっぱいに食べおわって、つぎはどうしようかと思いました。

 このまま大きな道路を歩くと、車が多いのであぶないかもしれません。このまましばらく進んで、小さい道を見つけたらそっちの方に行こうと考えて、かゆくなった足首をかきながらリュックサックにしゃけおにぎりとちゅるるのゴミと、飲みかけの『お茶をくれい』を入れて背負いました。みぃちゃんもツメで足首をかくのを手伝ってくれたけど、痛い。


「みぃちゃんは入ってて」

 コンビニのふくろを開くと、みぃちゃんがバシバシ叩いてきました。

「叩くんじゃなくて、入るの」

 みぃちゃんが頭からふくろに入ったので持ち上げると、しっぽがはみだしてお尻が出ていました。でも中でぬるぬる動いて顔を出したので、なんかふくろを持っているわたしの手もぬるぬるした感じになりました。


 ふたたび冒険のはじまりです。

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