第10話 なんかくさい!
「あれは、ビルだよ」
「にー」
「あれはねえ、ビルだよ」
「にー」
「あれはねえ、あれもビル」
「にー」
ビルしか知らないと思われそうなので、みぃちゃんに教えてあげるのをやめました。他にもけんちょうとか知ってるのにな。
「ここはビルばっかりなんだよ」
おじいちゃんとおばあちゃんの家のあるいなかには、ビルはほとんどありません。ビルが見えなくなるところまで行かないと、おじいちゃんとおばあちゃんの家に着かないということです。
みぃちゃんをコンビニのふくろに入れて持っていたけど、ぶらさげていると手が疲れたのでふくろにいれたまま抱っこすることにしました。みぃちゃんが白い服を着ているみたい。
はやくビルがなくならないかなあと思っていると、前から子供たちが歩いてきます。ランドセルを持っているので、小学生です。わたしもむかしは小学生だったなあ。
すれちがうときに今日から学校に行っていないわたしは、こうこうせいに見られるように「今日のごはんはなんにしようかな」と言いました。あの子たちにちゃんと聞こえたかな。
「あーあ、夕ごはん作るのめんどくさいなあ」
もう一度子供たちに聞こえるように言ってみると、前からもっとたくさんの小学生が歩いて来ます。さすがにみんなにそう言うのは大変そうで、黙ってすれちがうことにしました。なんだかみんなに見られていて、少しならいいけど大勢に見られているので気まずい思いがします。
別の学校の先生が見えたので、ちゃんと教育しなさいと思いました。
「みぃちゃん、これが小学校だよ」
みぃちゃんはふくろの中からキョロキョロして出たがっています。
「みぃちゃんも将来は通うんだよ」
猫がクラスの友だちなら、わくわくして人気者になりそうです。みぃちゃんは猫じゃないけど、ひょっとしたら学校で勉強しているうちに人間になっていくかもしれません。みぃちゃんが人間になれなくても、みんながみぃちゃんを人間だと思えば同じことです。
みぃちゃんがバタバタしだして、腕から飛び出してしまいました。
コンビニのふくろを残して、みぃちゃんはものすごく速く走って行ったので、あわてて追いかけました。別の学校の知らない先生にビクッとしていっしゅんだけ止まったけど、また走り出しました。やっぱり先生がこわいのかなと思ったけど、そんなことを考えている場合じゃありません。わたしも知らない先生を通りすぎて追いかけました。
曲がり角のところで、みぃちゃんは座っていました。
もっと遠くに走ったんじゃないかと思っていたので意外です。わたしの足は急ブレーキです。みぃちゃんは座って動きません。「みぃちゃんおいで」と呼んでも座って動きません。「みぃちゃんなにやってるの?」と尋ねても座って動きません。疲れて座りたいのかなと思って近づきました。
「くさい!」
みぃちゃんがなんかくさい。
「にー」
いつも通りに可愛い声です。でもくさい。
みぃちゃんが座っていたところを見ると、なんかありました。
うんちです。
みぃちゃんはわたしの足にすりすりして甘えてきました。みぃちゃんは、うんちがあるところにうっかりして座ってしまったんだなあと可哀想になりました。
「でももう大丈夫だよ」
わたしだったらきっと泣きます。座ったところにうんちがあるなんて。
「みぃちゃんは強い子だね。でもくさいね」
公園を見つけて水道で洗ってあげようと思いました。
きっと犬のうんちだなと思って、このままにしているとみぃちゃんみたいに気づかずに座った人が困ります。さっきの小学生がうんちの上に座ったら泣き出すかもしれません。
わたしはうんちを、みぃちゃんを入れていたコンビニのふくろでつかんで中に入れました。すぐ近くにゴミ捨て場があったのでそこに捨てました。
「気をつけないとね」
「にー」
うんちに座ったみぃちゃんを抱っこしたくないので、公園を探そうと歩いたらみぃちゃんはちゃんとついてきています。わたしはみぃちゃんの先生でもあります。
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