第11話 うんちのおじいさん

 公園には子供たちがのん気に遊んでいました。

 わたしもたまにはのん気になってもいいかもしれません。お母さんがパソコンをやっているとお父さんが「息抜きもだいじだよ」ってココアをいれてあげます。お母さんはキーボードをふたつ押してゲームから仕事の画面にすると「ありがとう、仕事がたまってて」と言います。お母さんは「ふー」って疲れた顔でため息をついて目を丸くします。それくらい息抜きはだいじです。

 公園のベンチに座ろうかなと思ったけど、おじいさんが座っていたので、まず水道でみぃちゃんを洗うことにしました。

「うんちを流そうね」

「にー」


 水を出すと、みぃちゃんは下に流れて行った水をなめ始めました。あめみたいになめるよりもすすったほうがいっぱい飲めるのに。

 みぃちゃんが飲み終わるのを待って、うしろから抱っこしました。

 お尻に水を当てると、みぃちゃんは暴れだします。

「ちゃんと洗わないと駄目!」

 みぃちゃんは「ぎゃー」って言いました。

「おふろなんだから!」

 またみぃちゃんは「ぎゃー」って言うので、もういいかと思って洗うのをやめました。蛇口を閉めるとみぃちゃんは飛び降りてぶるんぶるん体を振っていたので、そんなにいやなのかと同情しました。わたしもおふろに入るのはいやだけどお母さんにもっと入りなさいと怒られるからです。お母さんの十秒は六秒くらいから長い。


 ベンチを見ると、まださっきのおじいさんが座っていて、まったく動きません。死んでいるのかもと思ってようすを見に近づいてみると、目を開けてちょっと動いたので死んでいませんでした。

 安心したけど、わたしとみぃちゃんはどこに座ろうかなと他のベンチを探していると、屋根のあるベンチを見つけたのでそこで休憩することにしました。


 屋根のベンチのほうが高級そうな気もします。

 ひょっとしてあのおじいさんも、みぃちゃんみたいに座ったところにうんちがあったら可哀想だなあと思いながら見ていると、イヤホンを耳につけているのに気づきました。

 お母さんがゲームをするときもイヤホンをつけて「イケボ」と言ってうっとりして動きません。それと同じでおじいさんもイケボを聞いて動けないのかもしれません。だからおじいさんのことはもう放っておくことにしました。


 みぃちゃんもベンチに座ってごろごろしだしたので、わたしもリュックサックから今月号の『なかよろし』を出して読むことにしました。やっと『湯けむりキス王子』を読むことができる。


 わゴムを外すとパチンとなってみぃちゃんがおどろいたけど、すぐに気を取り直してまたごろごろしています。わたしも気にせずに付録を開けると、わたしの大好きな『湯けむりキス王子』のキラキラペンライトがあります。楽しみにしていたのでうれしくてさっそくつけて遊びました。湯けむりキングダムのライブの時にファンがみんなで振るやつです。振るとペンの横の宝石も、五人の王子みたいにキラキラ光ります。


 みぃちゃんもほしそうに手を伸ばしてきて、ちょっと遊んだけど飽きてきたのでリュックサックに入れました。


 他にも、プリキュワのくらやみで光るステッカーと『毛まみれハーレム』のチョーカーもありました。

「みぃちゃん、じっとしててね」

「にー」

 わたしはみぃちゃんに毛まみれハーレムのチョーカーをつけてあげました。

 このチョーカーをつけると猫になってイケメンたちにペットにされるはずです。もちろん付録なので本物ではないしみぃちゃんはもう猫なので意味はないけど、おしゃれだと思ったからです。

 でもみぃちゃんは手足でバタバタして外そうとしています。気に入らないのかな。

「外したかったら外していいからね」

「にーにー」

「でも似合ってるよ」

 そう言うと気に入ったのか、バタバタするのをやめてまたごろごろ始めました。


 わたしは夢中になっていて、湯けむりキス王子だけ読むつもりだったのにけっきょくぜんぶ読み終わりました。『きょうふのきょう子さん』以外は。

 ふと気がつくと、もう夕方になっていました。

 しまったとあせりました。


 暗くなるまでにおじいちゃんの家に行くはずだったのに、いつの間にこんなに時間がすぎたのだろう。

「いそぐよ!」

 わたしはなかよろしをリュックサックに入れて行こうとしたけど、みぃちゃんがついてこないので抱っこしました。

 あのうんちのおじいさんはもういませんでした。

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