第13話 おそろいだね

 コンビニの裏は、山がななめに立っていて、建物のすき間に入れそうでした。

 でも門みたいなさくが、月明かりにきらりと見えました。ひょっとしてだれかの家なのかなと思ったらみぃちゃんがななめの山によじ登って、さくをまわって入っていきます。わたしもまねをして山のほうからさくをまわって入りました。これじゃあさくの意味がないなあと思いました。


 そのままみぃちゃんについて進んでいくと曲がり角があって、また進むとコンビニの前に出ました。

「一周しちゃったね」

 みぃちゃんはなにも言わずにごろごろ転がりました。わたしも歩きっぱなしでそろそろ疲れたのでごろごろしたいです。


 あいかわらず、道路は暗くて、車の明かりがあるけどそれがよけいに暗くて、その向こうにある山の木がまだざわざわしているので、あまり見たくありません。

 コンビニの建物の横のすき間に戻って休むことにしました。


 建物とブロック塀の間はちょっとせまいけど風がなくて静かでちょっとだけあったかい気もします。

 でも少し暗くて、こわいほどではないけど、明かりがほしいなと思いました。

 わたしはリュックサックを下ろして『お茶をくれい』を飲んでから、『なかよろし』の付録のキラキラペンライトを取り出しました。『湯けむりキス王子』のライブで使うはずのペンライトがこんなところで役に立つとは。

 ペンライトの明かりは少しですが、地面に置いてさっき買ったスティックパンを食べました。

「にー」

「みぃちゃんはこれだよ」

 わたしは『ちゅるる』を取り出してみぃちゃんの口の前でにゅるにゅる絞ると、みぃちゃんはおいしそうに食べました。でもそうしているとわたしのスティックパンが食べられなくなるので、交互に食べることにしました。

「おそろいだね」

 わたしはスティックパンを食べて、みぃちゃんはちゅるるを食べています。

 たまにみぃちゃんはスティックパンを食べようと手を伸ばしてくるので、仕方なくちょっとちぎってあげました。わたしはちゅるるを食べないのに。

 わたしもちゅるるを食べてみようと匂いを嗅いだけど、やっぱりお父さんよりくさくて食べる気にはなりません。


「そうだ」

 ちゅるるをぜんぶ絞って思いつきました。なかよろしの付録には他にも今みぃちゃんのしているチョーカーと、プリキュワのくらやみで光るステッカーもあったのです。

 光るステッカーをみぃちゃんに貼りました。


 みぃちゃんはちゅるるのふくろをペロペロなめています。もうないのに。

 光るステッカーをつけたら暗くてもいばしょがわかるはずです。でも、毛ですぐにはがれてしまいました。何度つけてもはがれます。


 毛だらけになったのであきらめて、もう一枚を自分に貼ることにしました。

 胸に貼ると、ぼうーってちょっとだけ光っていて、まぶしくはないけど明かりにはならないくらいで、でも暗くてもみぃちゃんにわたしのいばしょがわかります。

 みぃちゃんは光るステッカーがなくても、目が光って見えるので貼らなくてもいいやと思いました。でも暗闇に急にみぃちゃんの目が出てきたらちょっとびっくりするかも。わたしは大丈夫だけど。

 晩ごはんみたいにおそろいじゃないけど、それはしょうがない。


 わたしもスティックパンを食べおわって、お腹がいっぱいになりました。

 スティックパンのふくろには、じだらクマのシールがついているのでそのままリュックサックに入れて取っておくことにしました。

 みぃちゃんはあくびをしてまたごろごろしています。

「わたしもごろごろしよう」

 リュックサックをまくらにして、横になりました。なんか寂しくなりました。ふとんがないからだ。

 起き上がるとみぃちゃんがビクッてしたけど、なんでもないよ。


 わたしはリュックサックからカーディガンを引っ張り出しました。持ってきてよかった。

「おいで」

 みぃちゃんに言ってまた横になって上からカーディガンを毛布みたいにかぶりました。

 みぃちゃんはわたしの腕まくらに来てくれるかなあと思ったら、スタスタ歩いてきてわたしの腕を踏んで、肩を踏んで、胸に登ってきて座りました。わたしは道かよって思いました。


「違うよ、ここだよ」

 あんまり動くとみぃちゃんが落ちそうなので、あんまり動かずに手でトントンと腕の中を合図しました。

 でもみぃちゃんはわたしの上に乗ったままです。


 みぃちゃんは両手で交互にわたしを踏んできました。

 なんだか細い棒で突っつかれているみたいでくすぐったくなって「ぎゃー」と声が出てしまいました。みぃちゃんじゃなくてわたしの声です。


 なんだかくすぐられるのがおもしろくなってきて「ぎゃはぎゃは」って笑ってたらみぃちゃんがあんのじょう落ちました。ずるりと。


 みぃちゃんはそのまま頭をもぞもぞさせて、わたしの腕の中にするすると入ってきました。

 とてもあったかくて、わたしはみぃちゃんをぎゅってしました。

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