第14話 ええやんけ!

 ほっぺたがかゆくて目が覚めました。

 ベッドから床に落ちてしまったんだなあと思ったけど、それは違います。コンビニの建物横のすき間で寝ていたのです。みぃちゃんも眠っていて、スース―寝息をたてて小さい鼻がぴくぴくして背中が船みたいに浮かんだり沈んだりしています。

 わたしは起き上がって、目をこすろうとしたらてのひらが真っ赤になって地面の跡がついていました。

 みぃちゃんはまだ可愛く眠っているので、起こさないように静かにしていました。


 夕方と同じくらいの暗さだけど、なんか違います。赤くなくてどちらかというと青くて、すずめがちゅんちゅん鳴いています。山の方は黒くてこわいけど、ちょっとは明るくて空気が静かです。ひょっとして朝かな。


 みぃちゃんが大きくなって、わたしはみぃちゃんに登っていって、チョーカーをつかんで背中に乗ったらとても速く走っておじいちゃんの家に着くといいのに。夢みたいに。


 そんなことを考えてぼーっとみぃちゃんの寝顔をながめて頭と背中をなでていたら、みぃちゃんが急に目を開けて、どこか向こうをを見つめました。

「おはよう、みぃちゃん」


 ゴトゴトゴトって聞こえました。


 どこからだろう。きっとみぃちゃんの見ている方だ。それはコンビニの建物のちょうど裏の方向です。

 みぃちゃんはじっと見つめたまま動かないので、わたしがようすを見に行くことにしました。


 そーっと裏の方に歩いて行くと、またゴトゴトって聞こえて、コンビニの店員さんかなあと思いました。

 曲がり角からこっそりのぞくと、みぃちゃんも足元についてきています。やっぱり気になるよね。


 のぞいた先には、ちょっとだけ明るい中でおじいさんが棚を開けていました。手には大きなふくろを持って、いっしゅんサンタさんかなと思いました。そんなはずはないと思うけど、もしかしたらということもあるからサンタさんを見ていました。


 サンタさんは棚からなにかを取っては大きなふくろに入れています。お弁当とかパンとかでした。これじゃあ逆サンタさんだ。

 どろぼうだ。どうしよう。どろぼうだったらこわいので、どろぼうじゃない人でありますようにと思いました。


 するとガチャっとドアが開いて「またあんたか!」って怒鳴る人が出てきました。逆サンタさんは「ええやんけ!」と言いました。

 ドアから出てきた人は「いいかげんけいさつ呼ぶわ」って言うと、逆サンタさんは「おう呼んでみい」と言います。わたしはどっちが悪い人なのかわからなくなりました。


「あれは大人のじじょうだよ、みぃちゃん」

 みぃちゃんは首をかしげて、わからないと言ってるみたいでした。わたしにもわからない。もう放っておくことにしました。


「大人ってめんどくさいよね」

「にー」

 そう言いながらリュックサックに荷物を入れて背負うと、わたしはまた歩き出しました。念のためにプリキュワの光るステッカーは胸につけたままです。みぃちゃんはチョーカーをつけたまま歩きます。


 車が少ないので、歩きやすいかもしれません。

 おっと、コンビニの駐車場から出るときにコンビニにおじぎをしました。お世話になったからです。みぃちゃんはそのまま歩いて行ったけど、そっちは昨日来た道です。こわい山が右に見えたのでわたしにはすぐにわかりました。

「こっちだよ」

 わたしが先に行くと、みぃちゃんも気づいて止まりました。

「こっちがおじいちゃんの家だよ」

 みぃちゃんはとっとこ走ってきて、一緒にてくてく歩きました。


 なんだか空気がひんやりして気持ちがいいです。

 車が少ないので通っていく音がとても大きくひびきます。本当は右側を歩かないといけないんだけど、横断歩道がないので左を歩いています。でも正直いうとこのまま左側を歩いていたいなあと思いました。


 海が見えたからです。


 見たこともない青い太陽がちょっとだけ見えて、それがまぶしくて、なんだか見ていると元気になる気がしました。

 だんだん右のほうの山もこわくなくなっていきます。そして海がざーんって遠くから波の音が聞こえて、鼻に入ってくる空気がつーんとしてキラキラした海をながめながら歩いていました。


 みぃちゃんは海をみたことあるのかな。気にせずにとことこ歩いています。車はずっと少なくて、まだみんな寝ているのだと思います。今ごろお父さんとお母さんは、わたしを起こしに部屋に入ってわたしがいないのでびっくりしているかもしれません。


 捜してくれるかな。捜されないほうがいいんだけど、捜してほしい気もします。捜してもらって見つからないのがいちばんいいです。


 石の柱があります。ここからは橋です。

 橋を渡ると、川の海のほうから太陽がまっすぐ見えました。川と海がつながっていて、キラキラまぶしくて太陽の道みたいだったので橋のとちゅうで止まってしばらくながめていると体がぽかぽかしてきてあったかくなって、がんばれる気になりました。

「もうちょっとだからがんばろうね」

「にー」

 みぃちゃんは手をなめて、顔を洗っています。わたしも顔を洗いたいな。


 橋を渡り終えると、左側にはずっと海が広がっていました。道路が遠くでカーブしていたので、目の前にずっと海が広がっているみたいに見えました。

 この道は知っています。こくどうです。

 家族でおじいちゃんの家に行くときに、このこくどうをずっと運転して行くからです。

 わたしは勇気が出てきました。


 その前に、顔を洗いたい。

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