第6話 よし、フラグ達成

 道路を歩いているつもりでいたけど、橋でした。

 でもどっちでも道なので、どうでもいいことだと思います。


「これは川だよ」

 抱っこしているみぃちゃんに川を見せてあげました。もちろん落ちないように少しはなれてです。

 太陽が反射してまぶしくて、まっ平に流れているので、子供だったらこの上を歩けるんじゃないかと考えるのかなと思いました。わたしはだいがくせいに見られるくらいなので、歩けるわけないと知っているけど、ひょっとしたらこうこうせいくらいにしておいたほうが安全だと思いました。

 それと、もうひとつひらめきました。


 川の向こうにはここと同じように何本も橋がかかっています。どの橋も同じように川を越えて向こうに行けるということなので、あんまり道路にこだわらなくてもおじいちゃんの家に辿り着けるんじゃないかなと思ったのです。

 ここまでは、家族できっずはーとランドに行く道を思い出しながら歩いて来たけど、ずっと歩いて行けばけっきょくは同じことのような気がします。

「知らない道のほうが、だれにも見つからないと思うの」

 みぃちゃんの意見も聞いてみます。

「にー」

「もしお父さんとお母さんが追いかけて来ても見つからないと思うし」

「にー」

「みぃちゃんはどう思う?」

「にー」

「うん、わかった」

 わたしとみぃちゃんは心が通じるんだなって感じてうれしくなりました。

 やっぱり話し合いって大事だなあと思います。お母さんなんてとくにそう。わたしに返事をさせるのに、お母さんが思った答えを言うまでなんどでも同じことを聞いてきます。

 お父さんもわたしを助けてくれずに、あとになってから味方をしてくれるけど、いつも遅くて、もうわたしは立ち直ってるのにむしかえさないでっていつも思う。


 お父さんとお母さんの声が聞こえた気がして、車の音がわたしをむかえに来たんだと思って、うしろで見ているんじゃないかって思って、どっちの道がおうちなんだろうって思って、知らないこの先に進むのがこわくて、お腹が熱くなって、のどがなにかが詰まった気がして、泣いちゃいけないから我慢したら腕にぽたぽた涙が落ちてきて、雨が降ったみたいにまつげがかゆくなって、帰りたいって言おうとしたらみぃちゃんがあったかくて、ひざがまっ白に冷たくなっていたのがあったかくなった気がして、ぜんぶ我慢して歩きました。


 みぃちゃんはなんだか眠そうに目をとろとろしています。

 わたしもひまがあったら昼寝をしたいです。

 道路が広くなって、車も多くなってきました。横にはきょうぎじょう公園があります。

 世の中は公園ばっかりだなと思っていました。そんな場所があるなら猫の家を作ってほしいです。そのきょうぎじょう公園を通り抜けて行こうと思いました。


 大きな体育館があるのを見て、今日は体育の授業があることを思い出しました。

 今ごろみんなのん気に授業を受けているんだなあ。今日はドッジボールなのでちょっとだけ残念だけど今はあきらめられます。お父さんは「大人になったらドッジボールはしない」と言っていたので、わたしも歳をとったんだなあと思いました。ああいうのができるのって子供のうちだとみんなにも教えてあげたくなります。


 走っている人たちがいて、早く走る練習をしているようでした。

「みぃちゃんの方が速いよね」

 みぃちゃんは眠そうにあくびをしています。「あんなの相手にもならない」って言っているようで頼もしくなりました。

「逃げないなら走らせてあげるんだけどな」

 みぃちゃんはすぐに逃げようとするから、あとで見つけるのが大変になるのでずっと抱っこしています。みぃちゃんは遊んでいるつもりでも、わたしは遊びで家出をしているんじゃありません。みぃちゃんは、その辺がまだわからないんだろうな。早くおじいちゃんの家にいかないと、見つかったら連れ戻されるかもしれないのに。


 けいさつの人が見えてビクッてしました。

 でも、あれはけいさつじゃなくてけいびいんです。お父さんが車を運転しているときに「びっくりしたー」ってよく言っています。ようするにけいさつのニセモノなので、捕まりません。

 わたしは安心して、堂々と歩いたほうがいいと思って、きょうぎじょう公園を出ようとしました。するとけいびいんがこっちをずっと見ています。

 ひょっとして本当のけいさつかもしれない。


 わたしはみぃちゃんをぎゅっと抱きしめて、反対に進みました。早歩きをしたけどそれでも追いつかれるかもと思って走りました。トイレの建物を見つけたので中に入ると、心臓がドクドクひびいていました。とりあえずトイレを済ませて、出口からそーっと走って来た方をのぞくと、けいさつはさっきの場所にいたけど、まだこっちを見ているようでした。


 壁づたいに、忍者みたいにこっそりトイレの裏に回って、そこから生け垣の間をすり抜けてきょうぎじょう公園の外に出てほっとしました。

 このお気に入りの『ニーノ』のデニムはひざ下までの丈なので、生け垣の硬い枝が足首に当たってヒリヒリしました。ニーノはフリフリしたスカートとかワンピースが多いので、お母さんは好きで買ってくれるけど、こういうときに困ります。わたしを家出させないためにニーノを買ってくれるのかなあとかんぐりました。気のせいだといいけど。


 もうちょっとよく考えて行動しないといけないなと思いながら歩きました。

 さっきのトイレに逃げ込んだのだって、お父さんのやっているゲームでは可愛い女の子がトイレ中に主人公の男の子がドアを開けています。「よし、フラグ達成」とお父さんは喜んでいるので、世の中にはそういう人もいるということです。

 そういうことを考えていると、ひときわ大きな建物が見えてきました。


 ガラス張りの壁がギラギラしていて、なんだかビルがえらそうにも見えます。

 中にいる人は、あの窓のにそばにいたらこわいんだろうなと思います。

 前にお母さんと一緒に入ったことがあるけど、あまり高いところまで行った記憶はありません。

 けんちょうです。

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