第41話 お父さんと同じ匂い
お父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんで、話はまとまったみたいです。
わたしはまだよくはっきりとわかりませんでした。
でもみんな、むずかしい顔は終わったので、それがいちばん安心しました。
「お米と、おしょうゆと、冷凍のおかずもね」
おばあちゃんがお母さんに言うと、お父さんとお母さんは車で出かけました。
ふたりは買いものにいったわけです。
ここからお店までは遠いので、車がないといけません。
おじいちゃんとおばあちゃんの家には車がないので、いなかだと買いものがふべんだと言っていました。
「みぃちゃんと遊ぼか」
「うん!」
おじいちゃんとおばあちゃんはすっかりみぃちゃんを気に入ったみたいで、一緒に遊ぼうと言ってくれます。
みぃちゃんを後ろから抱っこすると、みぃちゃんは山みたいな形になって、お腹の下がトンネルみたいです。
「トンネルをねえ歩いたんだよ」
「あのトンネルをか」
「あらまあ」
「みぃちゃんはねえ、リュックサックに入ってたの」
みぃちゃんがお利口なことをちゃんと知っていてほしいので、百円玉を見つけたりわたしをなぐさめてくれたりしたことも教えました。
おじいちゃんとおばあちゃんはにこにこしながら聞いてくれて、みぃちゃんはここで暮らせばそのうちおうちのお手伝いなんかもするかもしれません。
でもいまは家中を走り回っています。
ふすまをするりと抜けて、廊下をドタドタ走ったと思ったらつくえの下にもぐったりしているので、みんなでみぃちゃんを探すとおじいちゃんが「かくれんぼやな」と言って、押入れをのぞいて探したり、トイレを開けて探しています。
トイレのドアを開けたときに、すき間からみぃちゃんが入ってフタの上に座って、おじいちゃんがつかまえようとするとぴょんと跳んでまたドタドタ走り回って、なんだかとても楽しい。
たたみの部屋からバリバリと音が聞こえます。
きっとみぃちゃんの仕業だけど、いったいなにをしているんだろうと思ってのぞいてみると、みぃちゃんがたたみをツメで引っかいています。
「みぃちゃん、駄目!」
わたしはとっさに注意しました。
でもみぃちゃんは止めません。
「駄目ったら駄目!」
「にー!」
みぃちゃんが引っかいたたたみは、きずがついてぼろぼろの跡になっています。
わたしは力いっぱいみぃちゃんを抱っこして持ち上げて怒りました。
するとみぃちゃんも「にー!」と怒ってまた走って行きました。
わたしはぼろぼろになったたたみを見て、ちょっと泣きそうになりました。
おじいちゃんとおばあちゃんの家がこわれる。
そしたらみぃちゃんが追い出されるかもしれない。
わたしが鼻水をすすると、おじいちゃんとおばあちゃんがたたみを見ました。
「あら」
「あらあら」
怒られると思ったけど、おじいちゃんもおばあちゃんも怒りませんでした。
「いたずらっ子やな」
「だれかさんみたいやね」
おばあちゃんは「大丈夫やよ」とわたしに言いました。
「あんたのお母さんもな、子供のころたたみにバケツひっくり返してな」
おじいちゃんも笑っています。
「洗ってやろうと思ったんやて。えらい叱ったなあ」
わたしのお母さんが子供のころ、たたみを駄目にしたらしいです。
わたしは、お母さんも子供だったんだと知って、ふしぎな感じになりました。
そして、たたみを水で洗ったらいけないんだとわかりました。
わたしもきれいにしてあげようと思っていたから、先に聞けてよかった。
リビングに戻ると、みぃちゃんは走り回って疲れたのか、窓のすぐそばで丸くなっています。
みぃちゃんがあくびをして、わたしもそばで寝ころがりました。
みぃちゃんみたいに丸くなってみます。
ちょっとだけうとうとして気持ちよくなっていると、車の音が聞こえて、お父さんとお母さんが帰ってきたんだとわかりました。
車と玄関を行ったり来たりして、両手いっぱいにお米とかを下ろしました。
わたしは、おじいちゃんとおばあちゃんはこんなにいっぱい食べるのかなと思ったけど、話している内容からなんとなくまとめて何日ぶんも買っているんだとわかりました。
ビニールの水玉のふろしきをつくえに置くと、それはお昼ごはんでした。
大きなプラスチックのお皿におかずがたくさん盛り付けてあります。
いろいろな種類があって、エビフライとかハンバーグとかフライドポテトとかあって、どれから食べようか迷います。
するとみぃちゃんが目を覚まして、鼻をひくひくさせてつくえに飛び乗ろうとしたので、わたしはその前に気づいてしっかり抱っこしました。
お父さんは大きな袋を持ってきました。
「みぃちゃんにも買ってきたよ」
袋の中には、猫の顔がプリントされたキャットフードがいくつか入っていて、ちゅるるもありました。
わたしがコンビニで買ったちゅるるよりも大きな袋にたくさん入っています。
あれは四本で百四十円だったけど、これだけたくさんだときっと何十万円もしたんだろうと思って、お父さんが頼もしく見えました。
ゲームにかきんしているみたいにふとっぱらです。
「みぃちゃんはちゅるるが好きなんだよ」
お父さんは「そうなのか」とちゅるるを取り出して、スティックを開けました。
わたしは絞りかたを教えると、みぃちゃんはおいしそうに食べ出しました。
「おいしそうに食べるなあ」
わたしも同じことを思ったので見ていると、お父さんは「そんなにおいしいのかな」と、ちゅるるを食べようとしています。
わたしは自分でちゅるるを食べるのはいやなので、お父さんが食べたら感想を聞こうと思って黙って見ていました。
「くさっ」
お父さんはちゅるるの匂いを嗅いで、鼻をつまみました。
ちゅるるとお父さんの匂いは同じようなものなので、お父さんなら食べれるかと思ったけど、お父さんにも食べられないみたいでちょっと残念でした。
「あとね、チョコレートは食べたら駄目なんだよ」
わたしはみんなにみぃちゃんのことを教えながら、お昼ごはんと食べました。
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