第42話 おまたを見ればわかる

 みんなでお昼ごはんを食べていると、わたしは「あれ?」と思いました。


 ひょっとして、このふんいきだと、いまここにいるみんなで暮らすのかな。

 おじいちゃんの家でみぃちゃんと一緒に、お父さんとお母さんも引っ越して暮らすのかな。


 そう考えたらなんだかとてもうれしくなりました。


 でもお母さんはみぃちゃんから離れています。

 みぃちゃんが近づくとお母さんは逃げるけど、みぃちゃんは追いかけて、またお母さんが逃げています。

「ツメがこわい!」


 おじいちゃんとおばあちゃんは笑っています。

「むかし引っかかれたからねえ」

「小学校の帰りに拾ってきたなあ」


 お母さんは「やめてー」と言って、おじいちゃんとおばあちゃんは話を始めました。

「あんた鼻水じゅるじゅるで帰ってきて」

「発疹だらけでびっくりしたわ」

「でもけっきょく引っかかれて逃げられて」

「佐々木さんとこで子供産んでなあ」

 お母さんは「もうやめてー」ともういちど叫ぶと、リビングから逃げました。


 お母さんがドアを閉めるとみぃちゃんはドアを引っかいて追いかけようとしていたので、わたしはみぃちゃんを抱っこしてお母さんを逃がしてあげました。

 そーっとお母さんがドアを開けると、目が真っ赤になっていて、そんなにこわかったんだなあとかわいそうになりました。


 ドアのすき間からお母さんは言います。

「犬ならまだいいけど、猫は駄目」

 わたしはお母さんをなぐさめました。

「みぃちゃんは人間になるよ」

「じゃあ早くなってほしい」

「イケメンとか?」

「オスなの?メスなの?」

「おすとめすって?」

「男の子と女の子」


 知らなかった。みぃちゃんにも男子と女子があるんだ。

「わかる?」

「おまたを見ればわかるでしょうよ」

「じゃあ見て!」

 わたしはお母さんにみぃちゃんのおまたを見せようと近づけると、お母さんは逃げていきました。お母さんはどうじんしならおまたをよく見るのに。


 わたしはお母さんが逃げていくのがなんだかおもしろくて、つい何度もみぃちゃんを近づけてみたくなります。

 するとお父さんが言いました。

「お母さんに猫を近づけたらいけないよ」

「こわいから?」

 わたしは、みぃちゃんを猫と言われて言い返そうと思ったけど、お父さんがみぃちゃんの首をなでて、みぃちゃんが気持ちよさそうにしているのでまあいいかと思いました。


「お母さんだけじゃなくて、好ききらいはひとそれぞれだからね」


 ちょっとよくわからない。

 わたしはみぃちゃんのことを好きになってもらいたいのに。


「みぃちゃんのことは好き?」

 わたしはうなづきました。もちろんです。

「いろんな人を大事にするのは、それと同じくらい大事なことなんだよ」


 またよくわからない。

 わたしはお母さんのことも大事です。


 でもおうちからおじいちゃんの家に来るまでに、いろんな人がいました。

 助けてくれたり、正直いうといやな人もいました。

 どうしたらいいのかわからないことだって、たくさんあります。

 今だって、どうしたらいいのかわからない。


 わたしはお父さんとしばらくみぃちゃんをなでていました。

 みぃちゃんは目をうっとりして気持ちよさそうに頭をすりよせたり転がったりしていました。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」


 そう言われて、わたしはみぃちゃんをなでるのを止めると、みぃちゃんは「もっとなでて」と顔をすりすりしてきました。

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