第44話 写真と手紙

 わたしが学校から帰ると、お父さんはまだ帰ってきていませんでした。


 代わりにお母さんいて「お父さんは、お仕事の帰りにおじいちゃんの家に寄って行っている」と聞いて、ずるいなあと思いました。わたしもおじいちゃんの家に行って、みぃちゃんと遊びたいのに。


 宿題を終わらせて、お父さんにずるいって言おうと準備しました。

 宿題を終わらせておかないと「宿題は?」って言われて話をそらされるからです。


 お母さんに呼ばれて部屋を出ると、お母さんはスマートフォンを「見て見て」と言ってきます。

 またゲームかなと思って、これも付き合いだと思って、しかたなく画面を見ました。


 みぃちゃんです。


「お父さん、スマートフォンを買ったのよ。みぃちゃんの写真を撮って送りたいんですって」

 おじいちゃんが買ったスマートフォンで、みぃちゃんの写真を送ってくれたのです。

 じつはお父さんは、おじいちゃんとおばあちゃんにスマートフォンの写真の撮り方と送り方を教えに行っているらしいです。ぐっじょぶ。


 写真でもみぃちゃんはみぃちゃんです。


 わたしはうれしくなって、送られてきた写真をぜんぶ見ました。


 目が光っていたり、ジャンプしてぼけていたり、走り回っていたり、目を細くして眠っていたり、湯のみをなめるように玄米茶を飲んだりしています。

 どれもみぃちゃんらしくて、どれも可愛い。

 『毛まみれハーレム』のチョーカーもつけてあります。


「それと、手紙もいっぱい来てるよ」


 わたしはなんのことかわかりませんでした。

 お母さんは手紙の束を持ってきて、テーブルに置くと、わたしを隣りに座らせました。


「みんな、気にかけてたんだよ」

 そういってお母さんは手紙を読んでくれました。


『――私が少し目を離してしまって、申し訳なく思っています。

 その日は来館のお客様も少なかったので、すぐに迷子だと分かりました。

 しばらく付近を職員総出で探したのですが見つからず、念のために警察に確認すると、後に捜索願いを出されていたと連絡がありまして、心配していました――無事に見つかったとのことで何よりです。

 ――また科学館に遊びに来てね。県立科学館・館長――』


『――道の駅で見かけて、声を掛けて良かったと思っています。あの後すぐに雨が降って来たので、本当に心配していました。警察の方も応援を呼んでずっと捜していました。

 子供じゃとても遠いところまで、みぃちゃんと一緒に歩いていたんだね。

 ――みぃちゃんとも知り合えて、お喋りできて楽しかったよ。

 私たちは、動物の美容師さんになるために勉強しています。ペットの髪を切るお仕事です。――ちゃんみたいに動物を可愛がっている人たちを笑顔にしたいなと思っています。もし、また猫を見つけたら、いつでも相談してね』


『――猫と一緒に乗ってきたときに、ちょっとびっくりしました。あの後で捜索のことを知ったので、降りた場所の情報を知らせたのですが、もっと気に掛けていたらよかったと反省しています。――あの山道でバスを待っていたということは、あそこまで歩いて来たんだね。もしかして動物園に行きたかったのかな――ちゃんも猫ちゃんも礼儀正しくて、しっかりしておられました。お父様お母様にはご心配なさったと思いますが、どうかあまりお叱りにならないようお願い申し上げます――

 ――交通バス、一同――』


「大事なものの箱は?」

「持ってくる!」


 わたしは部屋に走るとおもちゃ箱を引き出して、奥からお菓子の空き箱を出しました。

 まわりにきれいな紙をのりで貼っていて、この中には幼稚園の先生からの手紙と、一年生のときの先生の手紙と、あとプリキュワのマジカルハートクリスタルも入っています。


「持ってきた!」

 わたしはもらった手紙を箱にしまいました。


 部屋に戻って箱をまたおもちゃ箱の奥にかくしました。

 でもお父さんが帰って来ると、すぐに手紙を見せるために取り出しました。

 そしてお風呂からあがって、もういちど箱を出して手紙を読みました。

 手紙は、同じ手紙なんだけど、うれしい手紙をなんかいも読んでいるともっとうれしくなります。


 お父さんのスマートフォンにも、みぃちゃんの写真がいっぱいありました。

 プリントして部屋にかざる約束をしました。


 お母さんに「もう寝なさい」と言われてベッドに入ったけど、ついみぃちゃんのことを考えてなかなか寝つけません。

 いまなにをしてるのかな。もう眠っているのかな。


 おじいちゃんとおばあちゃんにいたずらしていなければいいけど。


 たたみを引っかいていなければいいけど。


 ベッドのなかで、お腹の上にみぃちゃんが上ってくるような感じがして、わたしの胸を小さい手でふみふみされているみたいで、しっぽまでつるんとなでると「にー」って聞こえました。

 わたしは「またすぐに会えるよ」って言いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る