(第28話)わたしはお母さんになります

 太陽を見たらまぶしいから、影を見ながら帰りました。


 影を見ながらだと、どこまでも歩いて行ける気がするので、注意が必要です。

 いつの間にか歩くのに夢中で、おうちを通りすぎるかもしれないからです。


「こんにちは、おばさん」

「あらこんにちは」


「こんにちは、おじさん」

「こんにちは、学校はどう?」

「まあまあかな」

 本当は、ごきげんです。新しいくつを買ってもらったからです。

 今はまだはいていません。

 新しいくつは、おでかけのときに使うつもりです。

 だってさあ、しみとかついたらいやだもん。


 だれに買ってもらったかというと、お父さんです。

 お父さんはさいしょ「プリキュワのくつだよ!」って言って買ってきたけど、それは子供っぽすぎたから、わたしは苦笑いしました。

 お母さんが「買い直してきなさい!」と怒りました。もちろんお父さんにです。

 わたしもそのほうがいいと思ったので、サイズも合わないし、もっと大人っぽいのがいいので、お父さんについて行ってあげて、自分で選んだわけです。


 早く家に帰りたかったのは、それが理由じゃなくて、プリキュワのマジカルハートクリスタルを買ってもらったからです。これはおじいちゃんに買ってもらいました。

 プリキュワが変身するときに使うアイテムです。

 まあ、本物じゃないのは知っているけどね。


 おじいちゃんとおばあちゃんはいなかに住んでいて、わたしはお父さんとお母さんと住んでいるので、みんなでたまに遊びに行きます。

 車に乗って海をずっと行くと山があって、そのもっと向こうがいなかです。


 この公園のまわりよりも、木がいっぱいあるところです。


 今日はいつもみたいに公園には入りません

 いつも公園を通っているのは、近道だからです。

 遊ぶときは、ともだちとよく集合してまんがを持ってきて見せ合いっこします。


 そうすると、わたしは『なかよろし』を買うので、ともだちは『りんぼー』だったり『ちゃ王』を買ったりするので、いろいろ読めるというわけです。

 なお、付録の交換もたまにします。


 そしてなんと今日はなかよろしの発売日です。

 だから公園に入らないで、通りすぎて本屋さんに寄ってから、家に帰ります。


 フェンスの向こうでは子供たちが遊んでいます。

 それを子供たちのお母さんが一緒に遊んでいます。

 わたしは公園でむじゃきに遊んでいる低学年の子供たちを見ながら「あーあ、わたしは忙しいなー」と言いました。


 すると「にー」と聞こえました。


 なんだろう。お母さんのおならの音にちょっと似ています。


 わたしは立ち止まって、お母さんを探したけどいません。

 さいきんこうむいんになったので、今はお仕事でこんなところにいるはずはないんだけど。


 お母さんがこうむいんになるには勉強をしないといけなくて、わたしもよく隣で一緒に勉強しました。大人になっても勉強するんだなあと感心しました。


 また「にーにー」と聞こえました。


 わたしを呼んでいるのかなあと考えて、キョロキョロしたけどどこからかわかりません。

「はい!」

 わからないので、とりあえず返事をしました。


 まわりは静かでしーんとしました。

 公園で遊んでいた子供たちはお母さんたちに連れられて帰っていて、向こうに車が横切った以外はなにもありません。

 でもなにもないというのは間違いでした。

 段ボールが置いてあります。


 お父さんがよく注文してお母さんに見つかって怒られる『パパゾン』の段ボールです。

 わたしはとりあえず、そのフェンスの下の段ボールをのぞきました。

 プラモデルとかフィギュアが入っているかもしれないからです。


 中にはプラモデルでもフィギュアでもなくて、毛布が入っていて、もぞもぞと動いています。

「毛布が生きてる」


 ひょっとすると、美少女フィギュアが毛布の中で動いているのかもしれないと思って、もしそうならお父さんがよろこびそうです。

 とくに『猫耳ミク』だったらとてもよろこぶはずです。


 わたしは勇気を出して毛布を指で突っついてみました。


「にー」

 すると毛布のすき間から、もぞもぞと顔が出てきました。

 わたしよりもちっちゃい顔です。これはいったい。


「猫だ」


 お父さんの猫耳ミクのフィギュアは、猫の女の子です。でもこれは本物の猫です。

 大きな目をぱちぱちさせて、小さな口がぱくぱく動いています。


「にー、にー」


「どうしよう」

「にー」


 わたしは考えました。どうしたらいいのかわからなくなりました。


 わたしはとりあえずなでようとして、手を出してみると猫はわたしの手に頭をこすってきました。

 わたしの手にぴったりと頭が入りました。


 まるでくつを買ってもらったときみたいにぴったりです。


 この猫が子供かなと思ったのは、なんかそう思いました。ちっちゃいから。

 あと目が大きいし、声が高いからです。

 抱っこできるかなと思って、抱っこしてみました。


 すごくやわらかくて、あったかくて、ちっちゃくて、わたしが世話をしないといけないなあと思いました。


「お名前はなに?」

「にー」


 「にー」としか言わないので『にーちゃん』かなと思ったけど、わたしはよく「またかよー」って言ってしまうので、『またかよー』っていう名前だったらいやなので、だったら猫耳ミクのほうが可愛い名前だなと考えたので、『みぃちゃん』と呼びました。


「みぃちゃん」

「にー」


 みぃちゃんはちっちゃい手でわたしをこねこねしてくるので、わたしをお母さんだと思って甘えているのかもしれません。


 わたしはみぃちゃんを自分の子供として育てようと決心しました。

 わたしはお母さんになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る