第21話 きょうふのきょう子さん

 雨が降っています。どんどん強くなっています。

「だれもいないね」

「にー」

「だれもいないほうがいいよね」

「にー」


 ここは岩の下です。

 

 そこら中の落ち葉にすべってしまって、山のななめを落ちて行って、登ろうとしても葉っぱがすべるしもう足にちからが入らなくなってきたので、そのまま下のほうに歩いて行くことにしました。みぃちゃんはときどきぶるんぶるん体をふるわせて雨を振り飛ばすけど、すぐにぬれてしまいます。

 ななめの下に進むと勝手に足が歩くのでちょっと楽です。


 ななめが終わるまで下に進むと、ゴーッゴーッと大きな音が響いていて、雨の音かと思ったけど、もっと下のほうからで、川が流れていてそこからの音でした。


 大きな岩を見つけて、その下は雨が降ってこないので雨宿りできると思って、しばらく岩の下で休むことにしました。


「数字のチョコレートは駄目なんだよ」

「にー」


 みぃちゃんはまた、ぶるんぶるんして雨を振り飛ばしたので、わたしもまねをしてぶるんぶるんしたけど、むずかしくて目が回ってしまいます。

「みぃちゃんはすごいね」

 みぃちゃんは首をかしげます。

 なんだかおかしくなって笑っていたら、またかみなりが鳴ってみぃちゃんを抱っこしました。


 リュックサックから『ちゅるる』を取り出すと、みぃちゃんが「にーにー」と言って手をつないできます。さいごのちゅるるです。


「おいしそうに食べるね、お腹すいたんだね」

 わたしもさっきのお姉さんたちみたいに優しくなれたらいいなあと思って、ちょっと優しく言ってみました。わたしもキラキラしたいなあ。


 リュックサックから、魔女のお菓子屋さんで買ったスティックののゼリーを取り出して思いました。黄色のスティックのゼリーはキラキラしています。

「お姉さんたちもこれを食べているに違いない」


 開け方がわからなくて歯でかんでねじって開けました。



「おそろいだね」

 片手でみぃちゃんのちゅるるを絞って、もう片手でわたしのゼリーを絞りました。

 両手でにゅるにゅるです。


 なに味かわからないけど食べおわると、玄米茶を開けて飲みました。もちろんみぃちゃんの湯のみにも入れます。

 これはおじいちゃんの家に着いたらおじいちゃんの湯のみをだけど、おじいちゃんがいいって言ったらみぃちゃんものだからね。


 みぃちゃんは玄米茶をペロペロなめています。


 つぎにリュックサックの底からわたがしを取り出すと、なんか形がゆがんでいます。

 『なかよろし』につぶされていました。

「あーあ」

 みぃちゃんも「にー」って残念そうです。


「みぃちゃんが食べてもいいのかなあ」

「にー」

 わからないから、また今度ね。

 わたしはわたがしをしまうとみぃちゃんはもっと残念そうにリュックサックを見つめました。


 雨がやむまでなかよろしを読むことにしたけど、ぜんぶ読んだので、まだ読んでいない『きょうふのきょう子さん』を読んでみようと思いました。


 実はまだ一回も読みきったことがありません。絵がこわいからです、


 ページを探してきょう子さんを見つけると、暗い学校の廊下からきょう子さんがヌゥーって出てきて、ピカッて光ってなにかと思ったら、大きな音でドーンとかみなりが鳴って、体中が上から押しつぶされたみたいにちぢこまりました。空が割れたんだと思いました。

 ガンガラガラと耳とお腹に響いて、みぃちゃんがわたしのお尻にもぐってきます。

「みぃちゃん、大丈夫、大丈夫だよ」

 本当は大丈夫じゃないです。息の奥がふるえてこわくて寒くてさびしくなりました。


 やっぱりきょう子さんは読めない。

 もうちょっと大人になったら、お姉さんたちくらいになったら読もう。


 なかよろしをリュックサックにしまうと、みぃちゃんが今度はお腹にもぐりこんできました。あったかい。


「みぃちゃんはあったかいね」

「にー」


 わたしはみぃちゃんを抱っこしてなでていたら眠くなってきて、いつの間にか眠っていまいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る