第30話 きなこは大豆なんだよ
目を開けると星がきれいでした。
みぃちゃんはすぐとなりでわたしにくっついていて、波の音の間にスース―と寝息が聞こえたので、わたしもそのままもう一回寝ました。
リュックサックのまくらがちょっと痛くて目が覚めると、こんどは群青色の海が見えます。
ぼーっと見ていると太陽が海から出てきて、キラキラの道ができていきます。
「きれいだねえ」
「にー」
学校に行かなきゃと思ったけど、間違いでした。もう家出をしたのでおじいちゃんの家に行くのです。
おじいちゃんの家でみぃちゃんと暮らすことになったら、わたしは転校するのかな。
「そしたら学校から帰ってみぃちゃんとずっと遊べるね」
「にー」
わたしは「よし!」と言って立ち上がりました。なんだか元気が出てきて、今日こそおじいちゃんの家に着くぞと気合を入れました。
リュックサックを背負うと、みぃちゃんもぴょんと跳ねて気合じゅうぶんです。
足元にはカニがいてウニの石のすき間に歩いて行きました。
なんだか砂がすぐそこまでぬれていて、波が近づいているみたいで、昨日はもっと波が遠くだったのに変だなあと思いながら、ぬれた砂浜から階段を上って道路に上がりました。
目指すはおじいちゃんの家です。この先をずっと、昨日みたいに歩いて行けばたどり着くはずです。
「みぃちゃんレッツゴー!」
「にー!」
つかれました。
いつまで経っても道路が続いて、歩道の白線がぬーっと伸びています。
でもちょっと違うのは、左にずっと見えていた海が見えなくなって、家とかお店とか建物の道路になってきたことです。
「やっぱり見たことあるから、こっちだよ」
「にー」
みんなでおじいちゃんの家に行くときに車の中から見たことある『ウニクロ』や『東松屋』があるので、間違いなくこの道路をずっと行けばおじいちゃんの家です。
そのうちいなかになって、丘とか畑とかになるはずです。
『くらら寿司』も見えて、ちょっとだけ食べたいなあと思ったけど、もうあと二円しかないので払えるお金がありません。
「みぃちゃんは大きくなったらなにになりたいの?」
みぃちゃんは黙ってわたしの横を歩いています。
「わたしはお菓子屋さんになりたいんだけどねえ」
お菓子屋さんになりたいけど、じつはそれはともだちがみんな言っているのでわたしも言っているだけで、ほんとうはどんなお仕事をしようか思いつきません。ひょっとするとみんなもそうなのかもしれません。
とりあえずお菓子屋さんとかかんごしさんとかそういうことを言っておけば話ができるから。でも幼稚園の先生にはなってみたいな。
お父さんもお母さんもあまりお仕事の話をしないので、働くのがいやなのかなあとときどき思います。「つかれたー」とかは言うけど。たまにはどんなお仕事か教えてほしいんだけどな。
「きなこはねえ、大豆なんだよ」
「にー」
おもちにつけるものの中で、きなこがいちばん好きです。しょうゆで焼いたのも好きだけど。
でもきなこが大豆と言われたときは信じられませんでした。一年生のときの先生が教えてくれて、先生はかしこいんだなと思ったきっかけです。
大豆はちょっと噛んでるともさもさしてきて苦手なのに、きなこはおいしい。
「みぃちゃんはなんの花が好きなの?」
「にー」
わたしはパンジーが好きです。学級花壇で植えて、大きくなって育って花が咲いてうれしかったからです。ていねいに穴をほって苗を植えて水をやるところをずっと先生が写真をとっていたので、学級プリントに載せると、お母さんがそれをみて「育つといいね」とか「きれいに咲いたね」って言ってくれたのがうれしかった。あとひまわりも好き。
花ってさあ、芽が出ても、花が咲いてもうれしいし、見た人もうれしくなるから好き。
「お父さんはねえ、わたしよりもプリキュワに詳しいんだよ」
「にー」
「お母さんはねえ、お父さんを怒るけどねえ、本当は帰りが遅くてさみしいからなんだよ」
「にー」
なんだかわたしはずっと喋って歩いています。
じゃないとつかれる。
町はすっかり明るくなって、お日さまはきょうも元気になります。
太陽は元気すぎると暑かったりまぶしかったりするので、元気がいいけど元気すぎないでほしい。なんだかみぃちゃんに思ってることみたい。
信号があったり、車が多いときはみぃちゃんを抱っこしているけど、暴れるときもあるので、わたしのブラウスはツメでひっかかれて、そでがほつれてきました。
あと寝るときに毛布にしているカーディガンもいつの間にかほつれて糸がびよーんって。
道路が山みたいにうねうねしていて、坂道をずっと上ってはまたずっと下ってです。横にぐねぐねもしていて先が見えないくらいのカーブだったりするので、なんだか車もふらふらして曲がって走っているように見えます。
つかれるって言いたいけど言ったらもっとつかれそうで、でも言いたい。
「ドラゴえもんオレさまのハートにー」
「にー」
「フォーエバーシャイニングードリームー」
「にー」
つかれたの代わりに、ドラゴえもんとかの歌を歌いながら歩き続けました。歌っている間は元気が出るので、もう少しがんばろうという気持ちになってきます。
「飲んでー飲んで―飲まされてー飲んで―」
「にー」
この歌は『ニャーチューブ』の動画で見て好きになった曲です。
なにを飲むんだろう。コーラだったら大変。
お喋りもして、歌も歌って、たまに日陰とか公園を見つけたら休憩をして、なかなかいい具合に進んでいるんじゃないかな。
「みぃちゃん、どう思う?」
「にー」
そのようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます