第19話 おかあさんにあいたい

 お店の外にだいこんとかじゃがいもとかが並んでいたので、きっと野菜を売っているんだと思ったけど、中に入るとアイスクリームも売っていてわくわくしました。

 たなには変な草とか、あと漬け物とかも売っています。

 なんかわたしの買うものはないなあ。


「二百七十円でーす」


 しまった。つい『しぼりたてアイスクリーム』を買ってしまいました。

 お金を払うときにみぃちゃんを下ろしたらみぃちゃんは走ってお店をぐるぐる回って、たなの下に隠れたけど、おばさんが「ここだよ、ここだよ!」って言って教えてくれました。


「そとのベンチで食べよう」

 アイスクリームを見せたらみぃちゃんがついてきて、おばさんが「いい子ねえ」と言ってくれて、お姉さんの二人組も「可愛いね」って言ってくたのでなんだかとてもうれしくて、アイスクリームを半分より多くみぃちゃんにあげようと決めました。


 ベンチに座ってアイスクリームを味見して、みぃちゃんにあげるとちょっとなめてベンチから飛び下りました。

「いらないの?」

「にー」

 いらないみたいなので、わたしがぜんぶ食べることにしました。溶けるんだもん。


 アイスクリームをぜんぶ食べて、残ったコーンを食べて、みぃちゃんには数字のチョコレートを二つあげました。茶色と赤です。またカリカリ食べていると、さっき「可愛いね」って言ってくれたお姉さん二人組がやってきました。


 お姉さんたちはなんかキラキラしておしゃれです。


 みぃちゃんはビクッてしたけど、わたしが「大丈夫だよ」って言ったらベンチに飛び乗ってきたので、もうひとつ数字のチョコレートをあげようとしました。

「やっぱり可愛いね」

「なに食べてるの?」

 わたしは数字チョコレートを見せてあげました。


「それは駄目だよ」

 お姉さんは数字のチョコレートを指さして、しゃがみました。

「猫はね、チョコレートが苦手なんだよ」

 わたしはおどろきました。

「そうなの?」

 もうひとりのお姉さんもおどろきました。

「そうなの?」


 でもみぃちゃんはおいしそうに食べています。

「おいしそうに食べていても、毒になっちゃうからね」


 なんてこった。みぃちゃんはさっきも数字のチョコレートを食べてしまった。

 わたしは「毒」と言われてこわくなりました。

「さっきももね、みぃちゃんが食べたいって言って食べたの」

「そっか。じゃあもう食べさせたら駄目だよ」

「知らなかった」

 もうひとりのお姉さんも知らなかったみたいで、わたしも知らなかったので、わたしも「知らなかった」と言いました。


 お姉さんたちはマニキュアがキラキラして髪の毛もお化粧もキラキラして可愛くて、にっこり笑って優しく教えてくれるので、言われた通りにしようと思いました。

「ごめんね、みぃちゃん」


 わたしはリュックサックから『ちゅるる』を出して猫にくわしいお姉さんに見せました。

「これは食べてもいいの?」

 猫お姉さんはちゅるるを見て「これなら大丈夫だよ」って教えてくれました。

 みぃちゃんはちゅるるを見ると「にーにー」とほしそうにするけど、お昼ごはんには早いのでまだあげません。リュックにさいごの一本をしまいました。


 このお姉さんは猫はかせですごいなあと思いました。


「お父さんかお母さんは?」

「わたしがお母さんです」

「そうかあ、偉いね」


 偉いって言われてちょっとうれしくなって、名前を聞かれたので答えると、わたしのお父さんかお母さんはどこかと聞かれました。


 わたしは答えられませんでした。


 お父さんとお母さんは今どこにいるんだろう。

 お仕事だと思うけど、もしかしたらわたしを捜しているかもしれない。


 そんなことを考えていると、頭がずしんとして足の裏が冷たくなりました。

 わたしはいっしょうけんめいみぃちゃんをなでました。のどの奥が熱くなってみぃちゃんの顔がにじんできます。


「一緒に探そうか」

 猫はかせのお姉さんがそう言うと、猫はかせじゃないお姉さんがわたしの手をにぎりました。わたしは勝手にぼろぼろ涙が落ちてきて、なにも言えなくなりました。泣くつもりはないのに。


 のどが熱くなってせまくなって、みぃちゃんが木と木の間をすり抜けるときみたいにわたしの胸が小さくなって、鼻水が出てきて「みぃちゃんとおうちに帰りたい」って言ったけど声がだせなくて、かおじゅうもあつくなってなみだがじゃまでいっしょうけんめいお姉さんたちにせつめいしようとしてちんたいでかえないっていわれておかあさんにだめっていわれたりうみをみながらあるいたりおじいちゃんとおばあちゃんのいえにいきたくておかあさんにあいたいっていいました。


「そっか、やっぱり偉いね」

 涙でなにも見えなくて、みぃちゃんも見えなくて、でもお姉さんの手があったかくて、ずっとこのまま頭をさすっていてほしいと思いました。


 わたしは泣いたらすっきりしてすっかり気を取り直して涙をふいたら、猫はかせじゃないほうのお姉さんも泣いていました。なんで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る