第2話 わたしはお金持ち
お父さんは、またパソコンを触りだしたお母さんもこっちに来るように言いました。
「うちはちんたいだから、飼いたくても飼えないんだよ」
優しい口調でお父さんは言うけれど、内容は優しくありません。わたしはプールで泳ぐのが好きだけど水が鼻に入ったら痛くなります。そんな感じです。
「学校にもルールがあるだろう?守らないといけないことなんだよ」
ルールを守るよりも、みぃちゃんを守るほうが先だと思いました。いまもきっと寂しくしてるというのに。
「もしこっそり飼っても、お母さんが困るんだよ?」
わたしも困っています。だから話し合いをして、お母さんにマスクをしてもらうとか、みぃちゃんにもマスクをしてもらうとか、そういう話し合いをわたしはしたいのです。
こんどはそのお母さんがわたしを説得しだします。
「面倒見切れるの?」
わたしはうなづきました。もちろん自信はあります。
「エサをあげたり病院にも連れて行くの。トイレも覚えさせて、ツメで壁でも引っかいたり物を壊したらどうするの。猫はプリキュワのおもちゃを壊すのよ?」
またわたしはうなづきました。みぃちゃんはかしこいので教えたらすぐに自分でできるようになると思います。でもプリキュワのマジカルハートクリスタルを壊されたら、いくらわたしでもみぃちゃんを怒るかもしれません。でも、希望を信じて前向きに進むのがプリキュワです。そのときはそのときです。
「死んだらどうするの?」
「みぃちゃんは死なないもん」
「ご近所に迷惑かけたら?」
「みぃちゃんを注意する」
「留守中は誰が面倒見るの?」
お母さんは駄目だ。わたしにできないって言わせたいんだ。ひきょうだ。
お父さんだったら、わたしと一緒にプリキュワを見てくれるので、ひきょうなことは駄目だと言ってくれるはずです。そう思ってお父さんを見ました。
でも、お父さんはわたしを見てくれていませんでした。
「さとおやを探すか、ほけんじょに……」
「今その方法を捜してたのよ」
お父さんとお母さんがわたしを無視してなにかの話し合いを始めました。
わたしは目の前がぐるぐると回って、きっずはーとランドのジェットコースターに乗っている気分になりました。やっぱり動物園の方がいいなあと考えていました。
親を探す、とか、ほけんじょ、とかの言葉が、よくわからないけどとてもいやな響きがして、わたしは自分の部屋に走ってカギを掛けました。
少ししてお父さんが来て、優しそうな口調でなにか言っていました。そのあとお母さんも来て、出てきなさいと言ってきたけどそのうちあきらめました。
どっちもドアの向こうから呼ばれたけど、返事はしませんでした。わたしが泣いていることがばれると思ったからです。
わたしは決めました。
同級生より大人っぽいとも言われるし、漢字もけっこう書けるし、いざとなったら働けばいい。
窓から真っ暗な外を見ると、月が明るくて綺麗でした。いつもはビルで見えないのに、今日はそのすき間からわたしをのぞいていました。
下を見るとやっぱり高くて、プリキュワじゃないと飛び降りても無事ではすまないだろう高さです。本当はプリキュワはアニメだと気づいています。でもきっずはーとランドにいたプリキュワショーの着ぐるみの中の人だったらここから飛び降りても大丈夫かなと思いました。
でもわたしはプリキュワじゃありません。現実を見なきゃ。
貯金箱のプラスチックのフタは我慢していました。
定規を使ってこじ開けて中身を出しました。ちゃりちゃりと音が鳴りそうなので、誰にも聞こえないように指で押さえながらぜんぶ出しました。
財布のマジックテープも同じです。音がしないようにゆっくりとはがして中身を数えました。
二千二百二十円もあっておどろきました。間違いじゃないかと思って、なんど数え直しても二千二百二十円でした。一回だけ、二千百二十円だったけどそれは間違いだと思います。
「これだけあれば、何年もくらしていける!」
おどろきすぎてうっかり声に出してしまったので、口を閉じて財布にぜんぶしまいました。そしてぱんぱんに膨らんだ財布をリュックサックに入れました。
わたしはベッドにもぐりました。寝るためではありません。お父さんとお母さんが寝るのを待つためです。それにみぃちゃんのことを考えるととても眠れる気分じゃありませんでした。
今ごろ寂しくなって泣いてるかもしれません。ごめんね。でもすぐ迎えに行くからね。
目を覚ますと、すっかり明るくなっていました。
わたしは温かいベッドで眠っていたのに、みぃちゃんは寒い思いをしていたと考えたらまた泣きたくなりました。
でも泣いていられません。
わたしはいつも通りに朝ごはんを食べて、学校に行きました。
ただひとついつもと違うのは、ランドセルの中身がリュックサックということです。
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