第23話 ヌルっと出てきたおばさん
雨にぬれた道路は、山くさい匂いがしています。
遠くはもやで真っ白になって、見えるところでも緑の山ばっかりで、ガードレールをのぞくと下は崖になっていて、耳をすましたらドードーと川の音が聞こえます。
水たまりをよけながら歩きます。
車が来ないので、ちょっと歩道を越えても大丈夫だけど、油断せずにすぐに歩道に戻ります。
あとたまに「ケオォー」ってなんか鳴き声みたいな音も山から聞こえて、ひとりだったらこわくて進もうと思わないかもしれません。でもいまはみぃちゃんと一緒だから。
「いま気づいたんだけどさあ」
「にー」
「あれって、バス停じゃない?」
「にー」
車はぜんぜん走っていないけど、少し先に丸と棒が見えたので近づいて行くと、やっぱりバス停でした。歩くたびにバス停でした。
バスに乗ったら、おじいちゃんの家まで着くかもしれません。それにずっと歩くのもつかれてきました。
わたしは歩くのをやめて、バスを待つことにしました。
みぃちゃんはバス停の台の石に手を乗っけて背伸びをして、まるで時刻表をみているみたいです。わかるのかな。
しばらく待っていてもバスは来ません。
わたしはしゃがんでもう少し待つことにしました。
お尻はつけないけど。
また「ケオォー」って鳴き声が聞こえて、山の中からです。
いったいなんの動物だろうと考えてもわかりません。
もしさっきの山の中にずっといたら、遭遇していたかもしれない。
そんなことを考えていたら車の音がしました。
バスが来たと思ったらふつうの車で、タイヤが水を回していきました。
道路はまたシーンと静かにしだして、みぃちゃんも退屈そうにあくびをしています。
わたしもあくびが出ました。
「また雨が降らなきゃいいけど」
車の明かりが来て、四角い車がやってきました。
こんどこそバスです。
わたしが立ち上がるとみぃちゃんもバスに気づきました。
バスは近づいてきて、ちょっとドキドキします。
バスはわたしたちの目の前に停まると、プシューっていってドアが開きました。
わたしはみぃちゃんを背中から抱っこしてバスに乗りました。
「せいりけんをおとりください」
スピーカーから聞こえたので「はい」と言って二枚けんを取りました。
なん人かお客さんが乗っていて、こっちを見ているけどとりあえず、すぐ目の前の席が空いていたので座ると、プシューっていってドアが閉まりました。バスが動いていよいよ出発です。
歩くよりもずっと速くバスは進んでいくので、頼りになるなあと思いながら外を眺めていました。
みぃちゃんはキョロキョロしてちょっとはしゃいでいるので、ちょっと強めに抱っこしました。
「まー可愛いにゃんこねえ!」
うしろからおばさんの声がしました。
わたしはうしろを見ようとしたら、お化粧の匂いがプーンとしておばけみたいなおばさんがうしろの席からヌルっと出てきました。なんか鼻が痛くなりました。
ヌルっと出てきたおばさんは、わたしの席の背もたれをつかんで「あらまああらまあ」と言っています。他にもなにか言っているけど、いったいぜんたいわたしに言っているのか、それともみぃちゃんに言っているのかわからないので返事にこまりました。
ヌルっと出てきたおばさんは、いっぱい喋りながら手を伸ばしてみぃちゃんをなでようとしました。するとみぃちゃんは「ふぎゃー」って叫んでわたしの腕からジャンプしました。
みぃちゃんはそのまま窓に飛んで、ツメでカーテンにつかまってよじ登って、またジャンプして、今度はバスの中を走り回りました。
いちばん前まで走ってすべって止まると、またこっちに走ってきてジャンプして座席を跳ね回っています。
ヌルっと出てきたおばさんも「ぎゃー」って叫んでおどろいていたので、ちょっとおもしろくて見ていたら、他のお客さんもおどろいて、みんなみぃちゃんにくぎ付けです。
わたしはみぃちゃんは元気だなあと思って見ていました。
今度は座席の下にもぐりこんで、もぐらたたきみたいにいろんなところから出てきます。
ヌルっと出てきたおばさんは、また「ぎゃー」って言ってさわいでいます。
みぃちゃんは飛んだり跳ねたりして、やっと空いている座席に落ち着きました。手をペロペロなめて顔をふいています。
それからのみぃちゃんは大人しくしていて、けっきょくいちばんさわいでいたのはヌルっと出てきたおばさんでした。
バスが停まって、いちばんさわいでいたヌルっと出てきたおばさんが「ひっかかれたの!傷つけられたの!」って言いながらバスを降りました。
でもずっと見ていたけど、みぃちゃんはヌルっと出てきたおばさんのところには近づいていないので、おばさんの気のせいです。
わたしは鼻が痛くなくなって、ほっとしました。
みぃちゃんも鼻を手でこすって、ほっとした顔です。
またバスは走ります。
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