第26話 ガサガサガサガサ
つぎの横断歩道で向こうの道路に渡ろうと考えました。
なぜかというと、こっちは右側なのでこっちを歩くべきだけど、歩道がせまくなって白線に草が出てきて歩きにくくなったからです。またかよーって言いそうになりました。
「あ、青信号だよ」
「にー」
みぃちゃんを抱っこして急いで横断歩道を渡りました。
みぃちゃんはわたしにつかまれて足がプラプラしています。
なんかみぃちゃんの体が長く伸びたような気がしたけど、横断歩道を渡り終わって下ろすと元に戻っていたので、わたしの気のせいみたいです。
そして、海のほうの歩道を歩くと、コンクリートの壁から鉄のさくに替わっていて、大きい海がずっと向こうまで見えます。
ザーンって波の音が聞こえて、白い波がいっぱいキラキラして、向こうの雲が海の中にとけていくみたいできれいです。
絵の具をといた水を流しているよりもずっときれいです。
海の真ん中に、なんか灰色の石みたいなのが電車みたいに一列に並んでいて、ウニみたいにトゲトゲして、島かなと思いました。
しばらく歩くとなんか小屋みたいな建物が見えたので、あそこで休憩しようと思って近づくと、自動販売機がなん台も並んでいて、ベンチもあります。
わたしみたいにおじいちゃんの家まで歩いて行く人が休憩する場所なのかなと思いました。
玄米茶ももうなくなっていたので、また玄米茶を買おうとベンチに座ってリュックサックを下ろして、財布の中身を数えてみました。
するとなんど数えても、三百四十二円です。
家を出たときは二千二百二十円もあったのに、もう五百円玉もないのでなんだか不安になってきました。
やっぱり玄米茶を買うのをあきらめようかとしていると、みぃちゃんがベンチから跳び下りて、自動販売機の下に手を入れてごそごそしています。
なにかあるのかなと思って、みぃちゃんがごそごそしているところをしゃがんでのぞくと、お金が落ちていました。
百円玉です。
「みぃちゃんすごい!」
「にー」
みぃちゃんは得意気にベンチに飛び乗ると座ってあくびをしました。
「このお金で玄米茶を買おう」
ガコンといって玄米茶が出てきました。わたしは『お茶をくれい』が好きだったけど、みぃちゃんの好きな玄米茶をわたしも好きになりました。
リュックサックから湯のみを取り出して、玄米茶を入れてベンチに置きました。
みぃちゃんはすぐに飲むと思ったけど、飲まずにまたベンチを跳び下りて小屋の外に出てしまいました。
「あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ」
みぃちゃんはしっぽをふりふりさせて小屋の裏のほうに行きました。
わたしは玄米茶を飲んで休憩です。リュックサックから数字のチョコレートを取り出して、今のうちにぜんぶ食べました。
みぃちゃんはチョコレートを食べたらいけないけどほしがるので、見ていないうちに食べようと思ったからです。赤がいちばんおいしいかな。
みぃちゃんが戻ってこないのでちょっと心配になって、みぃちゃんの行った小屋の裏にようすを見に行きます。
するとだれもいなくて、海だけがザーンと鳴っています。
「みぃちゃん、どこ?」
「にー」
返事はあるのにみぃちゃんがいない。
「どこー!」
「にー」
まわりを見ても、あるのはひっくり返った段ボールだけです。
ガサガサガサガサといって段ボールが走りました。
「わー!」
段ボールがこっちに来ます。
わたしが逃げると追いかけてきます。
もう後ろは鉄のさくで、落ちたら海です。
「みぃちゃん助けて!」
「にー」
段ボールの中からみぃちゃんの声が聞こえたので、段ボールの中にみぃちゃんが入ってるんだと気づきました。
わたしはおそるおそる近づいて、さかさまの段ボールを開けてみると、中からみぃちゃんが出てきました。びっくりした。
ちょっとだけ、みぃちゃんが段ボールに食べられたのかと思ったから。
わたしをおどろかそうと悪戯をしたんだね。
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