第33話 プカプカ
道路の車もしばらく歩いて行くと少なくなってきて、三つくらい信号機を通り過ぎると道路はシーンとしています。
「ここをねえ、左だよ」
「にー」
わたしはひざがふらふらするのも忘れてがんばって歩きます。もう少しでおじいちゃんの家に着くからです。
みんなでおじいちゃんの家に遊びに行くときにこの道は通るのでちゃんと覚えています。
この道を進んでいくと、そろそろ踏切があるはずです。
「ない」
おかしいなあと思って、もう少し歩きました。
でもいくら歩いても踏切はありません。
「なくなった」
「にー」
踏切が引っ越しした。そんなばかな。
もう少し先かもしれないと思って歩いて行くけど、踏切はありません。
「畑を曲がったところにあるはずなんだけど」
まわりをぐるっと見渡しました。
するとなんてこった。まわりはぜんぶ畑です。
畑ちがいだったかもしれない。
少し戻ってみたけど、ぜんぶ同じような畑なので、どこを曲がって来たのかもわかりません。畑と畑の間には縦にも横にもいっぱい道があって、算数で使う方眼紙みたいになっています。
どこを見ても畑です。
わたしは溜め息をついて、道端に座りました。もうへとへとです。
「もう少しだと思ったのにな」
「にー」
みぃちゃんは草と遊んでいます。
真っ白な雲が流れていって、空が絵の具をとかした水みたいにずっと広がっています。
風が吹くと背の高い草がゆれて、ちょっとくさい匂いもします。ちょっとうんちの匂いに似ている。
見渡す限りに畑が広がっていて、道端は少しななめになっていて、その上にも畑がありました。
みぃちゃんがななめの草を登って行ったので、わたしも登ってみることにしました。
高いところから見れば、道がわかるかもしれません。
みぃちゃんは畑の中にぴょんと入ると、へんな歩き方になってすぐに戻ってきました。
畑の土にはみぃちゃんの足跡がくっきりとついていて、きっとやわらかくて歩きにくかったんだなあと思いました。
なにかはわからないけど、たくさん列になって芽が出ています。それがずっと遠くまで広がっているので、パンジーとかひまわりになったらきれいだろうな。
ここの畑のはじっこの草がふかふかだったので、草の上に寝ころがってみました。
すごく気持ちいい。
草の匂いがして、お日さまがぽかぽかして、すずしい風も吹いてきます。
「ちょっとお昼寝しようか」
「にー」
わたしは寝ころがりながら言いました。
みぃちゃんはあいかわらず、わたしにとことこ歩いてくると、わたしを道みたいに踏んづけて胸の上に乗ると、そのままくるって回って座りました。
「おしり!」
わたしの目の前にみぃちゃんのお尻がどてんと座ったので、みぃちゃんを持ち上げてぐるんと回しました。
「こっち!」
「にー」
ちゃんとみぃちゃんの顔が見えるように胸の上に座らせると、みぃちゃんが手をもそもそさせて、わたしの胸をふみふみします。くすぐったいけど気持ちいい。
わたしはそのまま気持ちよく目をつぶりました。
お日さまも草もみぃちゃんもあったかい。
みぃちゃんも丸くなってスース―と息が聞こえます。
みぃちゃんが息をするたびに、みぃちゃんのお腹がプカプカ動くので、動く毛布みたいで気持ちよくて、背中に手を当てると毛がふわふわして、なでるとつるんとしっぽまですべって、わたしはそのまま眠ってしまいました。
わたしもプカプカ。みぃちゃんもプカプカ。
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