その33 無知なる診察

「こっち! こっち!」

「まてまてまて、そんなに急ぐなって」


 こんな凸凹の道でどうやってあいつらはあんな速度で走ってるんだ!?

 いや、よく見ると四足移動しているのか? やっぱ見た目が犬にも近いしそこらへんの能力も持ってるのかねぇ。

 しっかしそれにしても元気だな……まー子供で元気なのは良いことだ、カーテン締め切った部屋でずっとパソコンとにらめっこしていた俺よりは十分マシ。


「はぁ……はぁ……」

「レフラン大丈夫か?」

「大丈夫です……はぁ」

「いや無理すんなって、俺の背中に乗れ」

「いえそんな! サハタダ様にこれ以上お世話になるのは……」

「いやそんなのいいから」


 やっぱここ最近色々あったせいで体力消耗しまくってんだろうな。

 そこらへんも考えて行動するべきだったか……。


「ありがとう……ございます」

「おう、ってなんか顔赤いぞ大丈夫か?」

「そう……ですか? ごめんなさい、私にもわかりません……」


 もしかして疲れすぎてカゼを……いや、ステータス見ても病気にはかかってないしなぁ。

 来たことがない場所に来てちょっと興奮してるとかか。

 

「君たち大丈夫か?」


 アイツよくそんな直角5mの段差を登れたな。

 こっちの世界でのDランクでもオリンピック選手になれるんじゃね?


「あー今行く今行く」

「あとね、もうちょっと!」

「そこそこ!」


 デコボコな斜面をレフランをかつぎながらヒョイヒョイと登る。

 正直子供の道案内とか大丈夫か? とか思いながら前方の下を見ると、10mほどの下に向いた急な斜面の先に木でできた建物、何かを燃やしたような煙、干された布、つまりは生活感がある様々な物が見えた。


「これが獣人の集落……」



△system

 MAP を表示しました



 特に地名などは書かれていない、しいていえばデカデカと「獣人族の集落」と書かれているくらいだ。

 広さはさっきのソプテマ集落と同じくらいだろうか、だが生活水準などはこちらの方が低く見える。

 

 レンガで作られた建物がないし、さっきの集落にはあった周囲を守る壁もない、それに遠目で判断するのもあれだが町をうろついている獣人の服が心なしか汚れているような気もした。


「あそこがわたしのおうち!」


 シロナが指さした方向は俺たちより少し前の下、そこからは急な斜面になっており、その先を目で追うと家があった。

 スワニとシロナは勢いよく坂へと飛び込んで砂がすり合う音とともに滑っていく。

 とりあえずついていけば問題ないか。


「……ん? おいパトリック?」

「えっ、あっ、な、なんだ?」

「いやアイツらが先に行ったのにボンヤリしてたからさ、体調が優れないのか?」

「あー……いや……大丈夫だ。問題ないさ」


 ……何もなければまぁそれでいいんだがな。


 下降りると、そこには小さい畑とそれに隣接しているボロボロの木造の建物があった。

 他にも端を固定された棒に濡れた布が垂れ下がってたりするのを見ると「こんな所に獣人は住んでいるのか」って思ってしまう。


 スワニは先にその建物の近くにおり、一部だけでっぱっている部分を引っ張るとそこに穴が出現した。 

 あれは……もしかしてドアか?

 じゃあ裏口のようなものなのかもしれないな。


「ご主人様、もう大丈夫です」

「おけおけわかったわ」


 ……レフランのことが心配だな。

 大事にならないようにできるだけ気にかけておくか。


 さて、とりあえずドアらへんに近づいて……と。


「おじゃましまーす……」


 玄関は太陽の光である程度見えたが、奥には光が全く届いてないらしく何も見えない。

 この世界のランプは貴重だったりするのか?

 つーかその前に今更感するけどまずここって中世なのか? 近代なのか?

 時代ってどうなってたっけ……もっと歴史の勉強しとくべきだったな。


「ただいまあ!」

「おかあさんただいまあ!」


 立ち止まっていた俺の横をすり抜けて家の中に飛び込んでいく獣人二人。

 よくこんな暗い場所にあの速度で突っ込めるな……まあいい、とりあえず靴を脱ぐか。 


「サハタダ、しゃがんでどうしたんだ?」

「ん? いや靴を脱ごうと―――」

「靴を脱ぐ……?」

「……あっ、いやなんでもねえ」


 よくよく考えればアジアの外だから、もしかして風呂とかに入る時以外は靴を脱がないのかもしれないな。

 それにここが俺の知っているヨーロッパと同じかは分からないが、もしそうなら人前で靴を脱ぐことは「はしたない」って言われるらしいし……いやスワニとシロナが靴履いてないからそれ以前の問題か。

 

「サハタダ様、パトリックさん、ちょっといいですか」

「ん? なんだ?」

「なんだかここ……変な臭いがしませんか?」

「変な臭い? ……言われてみればなんだか生臭いが、これって獣の臭さってやつじゃ」

「それとはまた別だ。けれどこの臭いはなんだ? どこかで嗅いだことがあるような、けれど全く違うような……」


 前世の俺はそこまで動物とか興味がなかったから「獣臭い」っていうのがどういうやつなのかわからず適当に言ったが……それじゃないっていうならこれはなんだ?

 鼻というか脳の奥にまで突っ込んでくるような臭いというか……頭を何度も叩かれるというか——


「おかあさん! おかあさん!」

「えっ」


 ……今のはスワニの声?

 何かあったのか? 


「まさか……! 二人ともこっちだ!」

「えっなになに!?」

「いいから早く!」


 俺とレフランの手を強く握り真っ暗な家の奥へと進むパトリック。

 お前もよくこの家の中をその速度で移動できるな、まるで家の中が見えるかのような動き……ん? 心なしか臭いが強くなってきた気が……。


「おかあさん! おきてよお!」

「おかあさんしんじゃやだあ!」

「なっ」


 連れてこられたその部屋は、窓から太陽の光が入ってきていたので明るく何が起きているのか把握しやすかった。

 端っこに移動された大きめのテーブル、椅子に置かれた木のコップとおけ……いや、そんなものを見てる暇はない。

 

 その部屋の真ん中にはうっすい申し訳程度の布に、体を挟んで横になった獣人が寝転んでいた。

 だがその獣人の容姿は明らかにおかしい。


「二人とも、ちょっと下がってろ」

「おいしゃさん! おかあさんはしなないの!?」

「おねがい! おかあさんをたすけて!」

「二人とも、はやくこっちに」

「大丈夫。大丈夫だけ……ど……」


 臭いがかなりキツくなったな……もしかして発生源はこの人からか? 

 子供たちが声をかけても反応しなかったり、全く動かない所を見るとなかなかヤバめだな。

 布からはみ出していた腕の……これはニキビなのか!? 拳ほどの大きさがあるぞ!!

 それにこれだけじゃない、よくよくそれを見ればほかにも様々なサイズのそれが沢山ある、というかマトモな肌がの部分が全くねぇ!!

  顔も首も手の平も足も全てこれで覆いつくされてんじゃねえのか? じゃあさっきの生臭い臭いはこれから……おいまて、このニキビ何か動いてるようなきがしたけどよく見るとこれ膿じゃなくて……白くて小さい虫か沢山?


 なんだよこの急な蓮コラとホラー展開……!? 

 寄生獣とかそんなのか……いや、一旦落ち着けサハラタダノリ。

 とりあえず薬を出現させてさっさと治そう。

 これを長時間視界に入れるのは色々やばい……!!

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