第4話 初魔法習得

大きな声が気になり振り返ると、目の前には山賊3と山賊1が小さく包まりながら頭を下げて怯えている。


 しかし「自身が不利だ」と敵が感じたら頭下げて降伏するなんてゲームはあまり見たことがない。

 なるほどな、このゲームの人気な理由が段々分かってきたようなきがするぜ。


「こ、こいつらは俺の昔からの仲間なんです! 攻撃を加えたことは謝ります、ですから俺達を許してください!」

「許してください!」


 正直こいつらを殺そうが殺すまいが俺にメリットはないし、こういう時に殺したりするとエンディングが悪い方に行ったりするからなぁ。


「あー……これどうやってコマンド選択すんだ?」

「こまんど……ですかい?」

「お、おお……」


 このNPCまさか俺が喋った声に反応してんのか!?

 すげーよこのゲーム! リアルすぎるよ!


 よーし、せっかくのRPGなんだし……今更感あるがロールプレイしないと!


「ゴホン……今回は許してやるさ。だがまた、俺の前に現れた時にこんなことしていたのなら……」


 今のうちにカッコよさそうな魔法を……ん? 最初から覚えてる魔法があるのか?

 じゃあこれを使ってみるか。



△system

 魔法黒い火球 発動



「骨の芯まで灰にしつくしてやる」

「すみませんでしたぁぁ!」


 ……俺に語彙力とセンスがないのはよくわかった。


 山賊1と3は物凄いスピードで死にかけの山賊たちを担ぐとそのまま森の中へと消えていった。

 ……うーむ、逃げる時のモーションも必死感あってすげえな。

 モーション取るの大変だったろう。


 しっかしこの黒い火球本当に黒いな……さすがファンタジー、こんなの初めて見たわ。

 つーかやっぱ自分から出てる火は熱くないのな。


「助けて下さりありがとうございますぅ!」


 後ろで俺を見ていたチビのおっさんは山賊を見送ってからこっちにとびこんできた。

 うわっ、鼻水まみれじゃねえかきたねえ!


「あー……まあまあ、怪我なさそうでよかったよ」

「ええ、貴方様が守って下さったおかげです! 私は奴隷商人のペストス、貴方様のお名前は?」

「俺の名は……旅人でいいよ」


 名前まだ決めてなかったわ。


「そうですか……とにもかくにも助けてもらったお礼に、何かお返ししたいのですが」


 イベントきたぁぁぁぁあ!

 

 何時間も待ったかいがあったぜやっとかよ。

 そら勿論もらうにきまってるやん!


「見返りを貰うのはあんまり好きじゃあないんだが……しょうがねえ、貰ってやるよ」


 かっこつけとこ。


「ここから少し走った場所に私の拠点があります。そこで奴隷を差し上げましょう」


 おうふ、なろうのテンプレである奴隷か。

 俺は静かに暮らしたいからあんまいらないんだけどなー……まあ貰うだけ貰って後でどっかの町に置いてくるか。


「しかしなんでこんな森にわざわざ一人で来てたんだ?」

「他に二人用心棒がいたのですが……」


 チビ男の視線の先を見つめると、そこには整った服を着た男二人が倒れていた。

 なるほどな、どうやら殺されてしまっていたらしい。


「そしてこの奴隷を別の町まで運ぼうとしていたのですよ」

「ん? 奴隷?」


 ペストスはランタンを持って牢屋の中を照す。


 するとそこにはボロボロの雑巾のような布を巻いて、青髪を垂らし、虚ろな青色の瞳でじっと下を見つめている12歳ほどの少女が寝転んでいた。

 だが、その少女の身体的特徴を言葉で表すのならそれだけでは足りない。


 ……変色し完治してしまった火傷、紫色になった青あざ、赤いミミズ腫、爪がないもしくは変に曲がった指、それが全身のありとあらゆる場所にあった。

 それに肌は黒い泥のようなもので所々汚れており、何も食べていなかったのかやせ細っている。


 いやいや、ちょっと待てよこれってR18Gゲーだったのか?

 つーかさすがにグラフィックがリアルなだけあって痛々しいな。


「え―っと……この娘に何があったのか教えてくれないか?」

「元々はある義理の父に育てられていたらしいのですが、その父は人を痛めつけるのが趣味だったようでして……しかし最近は娘が反応しなくなったらしく、処分を困っていたらしいので私ら奴隷商人の方へ譲っていただきました。しかしこれの怪我は思ったよりも深刻で……もし容態が変わらなければ処分する予定です」


 すまん、ここベルセル〇か何か?

 ダークソウ〇か何か?

 ダークファンタジーか何か?


 とりまこの子はヒロインだろうし物語の鍵でもあるだろうから、ここは引き取っておいた方がいいな。


「なあ、この奴隷俺に譲ってくないか?」

「えっ!? これをですか!?」


 そんな大声で驚くなって。

 あー耳がいてえ。


「体も怪我だらけですし全く話しませんし……これより話上手で巨乳なもっと高級な奴隷が沢山いますよ!?」

「いらないよこの娘でいいんだ。それとも何だ? お礼はしてくれないのか?」

「い、いえいえ滅相もございません。檻の鍵を開けますね」


 ペストスはポケットから鍵を取り出すと、檻の鍵穴に向けて差し込みひねる。

 とりあえず優しく、なおかつゆっくりと檻から出さないとな……。


「……本当にいいんですか?」

「いーよ、つーかこっから一人で大丈夫か?」

「それのためにゆっくり走っていましたからね、今は早く走れますから問題ありません。旅人様はどうされるんですか?」


 ペストスは馬車に乗り込み手綱を握る。

 つーか今更だけどこんな馬車もなんかファンタジーっぽいよな。


 これから行くところは特にまだ決まってはいないが……とりあえずゲームのテンプレに沿って町を目指すか。


「俺はこの娘と一緒に近くの町へ向かうよ、そこで色々調べたいことがあるしな」

「近くの町……というのはサルトナですか? 私もその街に行こうとしていたんです。もしよければ私の店に来てくださいよ、沢山の奴隷がいますよ」

「ああ……考えとく」

「では」


 ペストスはそう言い残すと馬車を走らせてそのまま暗い森の奥へと消えていった。

 ……さーってと、どうすっかな。

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