第5話 「奴隷が仲間に加った!」
とりまイベントをクリアした報酬なのか奴隷をもらったわけだが、当たり前のようにマーカーはどこにも表示されていない。
つーかこの少女どないすんね……いや、これはあれだ。
主人公の謎の力が発動して意識が戻るタイプだろ
なーるほど、のちの伏線として使うためのイベントか!
「とりあえず触ってみっか」
ピタッ
「…………」
「…………」
―――3分後―――
「いや何も起きねーじゃねーか!」
3分間触り続けても全く何も起きねぇ!
相変わらず少女は虚ろな目でどっか見てるし……もしかしてチートのやりすぎで何かバグったか?
あーもうめんどくせ、魔法か何かで体治して意識戻させるか。
……そういや魔法ってどうやって覚えるんだ?
△system
癒しのスクロール を取得しました
△system
△system
なるほど、スクロールの中に魔法がいくつか書かれてんのね。
えーっと、少女の体に手をかざしながらでいいんだよな?
おおぅなんか俺の右手が光り始めた。
それにゆっくりとだが戻っていく指や、消えていくアザを見る限り回復してい……いや誰だよお前!?
俺の膝を枕にして寝転んでいた少女は、いまだある程度の火傷の跡は残っているのはいえどそれ以外の怪我が消え、瘦せ細かった体ももとに戻ったおかげかさっきよりも見違えるほど美少女になっていた。
しかし、この完全に完治していない火傷を見る限り大昔の傷は治らないのかもしれないな。
開いてた目は閉じて寝ているところを見ると容態はよくなっているみたいだが……これで意識が戻ればいいんだが。
「おーい、起きろー」
「……」
……まあついさっきまで死にかけだったんだ、そう早くには起きないだろうよ。
とりまここを夜を過ごすためにキャンプ地にするか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……よし」
そろそろ30分が経過する。
雨風を凌ぐためのテント、焚火を取得したスキル【野営】で制作し、その火で素手で千切ったウサギの肉を棒に刺して焼いている。
下味は塩だけだが上手いだろうか?
手料理はあんまりしたことがなくて、そこまで得意じゃないんだよな……料理系のスキル取っとくか。
少女は毛布の上に寝かせておいた。
これで良くなればいいんだが―――
「……うぅ? ここは……?」
周囲キョロキョロしながら見渡している美少女かわいい。
いやそんなことよりも挨拶だ。
「やっと目が覚めたようだな、体調はどうだ?」
「貴方は……えっと、体の調子はとてもっ……あれ? 体の傷が―――」
「その様子を見る限り体の機能はちゃんと回復してるみたいだな、よかったぜ」
「えっ? も……しかして私の怪我を治してくれたのはあなたなの?」
「ん? ああ、そう―――」
「ありがとうございます!」
「おおう!? い、いやいやまあいいって―――」
「本当にありがとうございます……本当に……」
「……あ、ああ」
美少女がいきなり飛びついてきたので驚く俺。
少女は先ほどの死んだ魚のような目とは打って変わって今は光を取り戻し、少し涙を流しながらも震えた声で赤面しながらギュッと抱き着いている。
一切の不純物が混じっていない暗めの灰色である髪と瞳、人形のようなバランスがとれた体と美少女と呼べるほど十分な顔、布のようになめらかできめ細かい鮮やかな肌色、だがそのせいで余計に痛々しく目立つ切りつけられたような傷や顔の火傷。
……ラノベっぽく紹介するとしたらこんな感じだろう。
しかしやっぱりリアルだよこのゲーム。
美少女の心臓の鼓動が体に伝わってくる。
「まーとりあえず一旦離れな、飯だ飯」
焚火付近に立てていたウサギの肉の焼き具合を確認する。
……うむ、ちゃん表面が脂ぎっておりきつね色、てか少し焼きすぎたのか所々焦げているな。
「ほい、これやるよ」
「これ……何の肉ですか?」
「……? ウサギの肉を知らないのか?」
「ご、ごめんなさい……お肉は知ってるけどずっと”おはっぱ”しか食べてませんでしたから……」
「お……おはっぱ?」
「おじさんが作ってくれたご飯です。庭で取れたはっぱで、いくら切っても切っても沢山生えてくる丈夫なものらしくて、その特性を生かして私の体を丈夫にするために毎朝それを食べていあした。最近は作ってくれなかったけど……」
少女それ”丈夫になる草”ちゃう、ただの雑草や。
なるほどな……こいつの義父はかなりクソ野郎だったらしい。
「食ってみろよ、なかなか美味しいぜ?」
「い……いやでもいらないです」
「えっ? いやそんなこと言わずにほら」
「助けてもらったばっかりなのに、次から次へと貰うのは……」
「ほー……」
凄い礼儀正しい少女だな、滅茶苦茶しっかりしてる。
「えっとさ、俺はさっき奴隷商人助けてそのお礼として貰ったのがお前だったんだよ。つまりどういう意味かわかるか?」
「えーっと……つまり貴方は私のご主人さま……?」
「そう! そしてご主人さまの命令は絶対だからほら食え!」
「……!」
手を無理矢理引っ張り強引に手のひらにウサギの肉が刺さった棒を握らせる。
こうでもしないと食ってくれないだろうからな。
「私なんかが食べてもいいんですか……?」
「いいんだよ、俺なんかも食ってるんだしさ」
「そう……なんですか? よくわからないけど……いただきます」
少女は恐る恐るだが、口をゆっくりと肉に近づけると、それを少しだけ噛んで口の中へと運ぶ。
すると少女はたちまち笑顔になった。
「……美味しい、美味しいです!」
「はっはーだろ!?」
「……はっ……」
嬉しそうにこちらを向くが、自分の素が出てることに気が付いてハッて我に返る美少女かわいい。
いかんいかん俺も欲しくなってきた。
後でコンビニエンスストアでLチ〇でも買ってくるとして、この飯食えばステータスがどうなるのか試してみるか。
ゆっくりとだが食べるスビートが早くなっている少女を見ながら、俺もまけじと肉にかぶりつ……いやちょっとまって。これどうやって食えばいいんだ。
もしかしてアイテム所持一覧から食わないといけないのか?
「……うめえ」
どうやらそうみたいだな。
それにしてもすげーな味するんだけど。いやすげーよこれマジすげえ。
噛むと肉汁が口の中に広がって、申し訳程度の味付け要素の塩も絡み合ってなかなかいける。
そして呑み込むと腹にも溜まる!
いやーこれは凄いわ、VR進化しすぎだろ!
ディズ○ーのアトラクションでお菓子が映像に映ると甘い匂いが漂ってくるとかあったけどあれから進歩してんだな。
「そういえばどうやって私の怪我を治したんですか?」
「あー、それは俺が回復魔法かけたんだよ」
とりあえず無難にこう言っておこう。
「回復魔法……もしかして冒険者さん?」
冒険者……あーファンタジーでよくいるアレね。
まああんまりよくわからんし、とりあえず医者ってことにしとこう。
「俺は医者だからよくわかんないね」
「お医者さん! 私お医者さんになるのが夢なんです!」
「ほー、どうして?」
「だって……お医者さんなれば自分で怪我が治せるようになりますから」
「……そうだな」
あかん、お前がそういうこと言うとなんか悲しくなる。
「……あ、あの」
「ん?」
「もしよければ……私にお医者さんの弟子にしてくれませんか!?」
「弟子!?」
唐突だなオイ。
まぁ別に困ることなんてねーしヒロインとは仲良くなっといた方がいいし弟子にしてやるか。
しかしこれ……もし俺が魔法使いって言ってたらこの子は「魔法使いにしてください」って言うのかな。
「いいよ、弟子にしてやるさ」
「本当ですか!? あ、ありがとうございます!」
いやまあしかし……今こんなこと言うのもあれだがキャラデザ可愛いな。
VRなのにここまで画質綺麗にできるってすげーな。
とりあえず今のうちにステータス見とくか。
△system
スキル【観察眼】 発動
△system
名:ノロマ 苗字:無し
冒険者ランク:無し
性別:女
種族:人間
年齢:12
素性:奴隷
更なる詳細 →はい いいえ
見た目からして予想通りだがまだ12歳の少女だったか。
しかし名前がノロマって酷いな……これは義父に言われてた名称なんだろうか?
これから一緒のPTとして仲間にになるかもしれんし、ストーリーの序盤のキャラっていうのは大体重要な役割があるだろうから今後かなり関係していくだろう。
自己紹介をしといたほうがいいか。
「初めまして、俺の名は―――」
……何だっけ?
そういやまだ決めてなくね?
こういう時はしっかりと名前を考えなくっちゃな。
いや、最初に山田太郎って付けた俺がいうのもあれだがそれはチート製作者用の名前であって、ゲームを普通にする場合はよーく考えているのだ。
じゃあもし仮に今俺の名前が適当に食べ物の名前を入れようとした挙句『かつ丼』になったとしよう。
すると主人公の名前を呼ばれるたびに『かつ丼』という文字が表示される。
『おいかつ丼! 一緒に飯食おうぜ!』
『ねえかつ丼……私かつ丼のことが好きなの』
『かつ丼! 貴様はこの世界に存在してはならないのだ!』
『かつ丼、貴方の力を見せてくれ』
『かつ丼! かつ丼! かつ丼!』
なあ? わけがわからなくならないか?
ヒロインの告白はなんか好きな食べ物言ってるだけになるし、敵キャラっぽいセリフに至ってはかつ丼嫌いな人みたいになるし、中には料理漫画の対決の1シーンみたいにもなる。
……実際、俺にはそういう体験談がある。
そういう経験があるからこそ名前ってのは慎重に決めないといけないのだ。
恐らく最初の僕だったらBANされるんだからどうでもいいだろと適当に名前を決めて、それこそかつ丼にしていただろうが、ここまで来てからやり直すのはもう面倒くさいからやりたくねぇ!
元の名前からどうにかして持ってこれないだろうか……?
「……サハタダ・イネプトだ」
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