その35 獣人との間
説明文には一切書いてなかったがこれはなにか危ない薬なのか!?
つかバルトラってどこかで聞いたことがあるような……もしかしてゲームのOPか?
「彼が薬で治してくださったんです」
「彼……?」
「えっ、彼って誰?」
「サハタダのことじゃないのか」
「あっ俺!? あ、あーそうだね! うん、そう! 俺が治しちゃったんだよパパッと!」
やべえ一瞬誰かわからなかった。
「おいしゃさんがわたしのけがもなおしてくれたんだ!」
「ふしぎなくすりであっというま!」
「な、なんだと……それは本当か!?」
「ですか村長待ってください! 彼らは人間ではないのでしょうか!?」
「そうです! この集落に人間を入れるなんて……」
えっ? なんでこいつら同じ獣人で言い合ってんだ?
……ちょっとパトリックに小声で聞いてみるか。
「なあパトリック、もしかして獣人と人間って仲悪いの?」
「当たり前じゃないか。……10年前から一つも変わっていないさ」
「なんで?」
「なっ……なんでって10年前に戦争があったことを知らないのか?」
「知らないんだけど。レフランは知ってるか?」
「ごめんなさい、わからないです」
「そ、そうか……世界は私の知らないことで溢れているんだな」
パトリックはコホンと咳をすると、戸惑いのない真剣な声で話し始めた。
「10年前、人類で最も大きい国の王が殺されたんだ。その犯人が獣人でありさらに獣人の国の暗殺部隊の一人だったことが判明した」
「えぇ……そんなことしたら人類サイドぶち切れ案件でしょ」
「その通り。王を殺されたことで怒り狂った国民は報復として獣人の国に攻めようとしたけど、次の日には獣人の国の王が殺されていた。その犯人は人類の王国の暗殺部隊の一人だったんだ」
「やり返すの早くね!?」
「話が複雑でそれ以外にも色々あるんだけど……とりあえず、そんなことがあって以来人類と獣人は睨み合ってるんだ。だが勿論全員が恨みあっているわけじゃない。どうでもいいと思っている人もいるし過去の出来事だと水に流した人もいる、けど多くの人達はまだ快く思っていないんだ」
「ほーん……なーるほどねぇ……」
たった10年しか経ってないんならそうなるよなぁ。
「……もしかして『二度とこの集落の土地を踏まないでくれ』っていうオッサンの発言はこれと関係しているのか?」
「おそらく……いや、間違いなくそうだろうな。獣人に触れると病気が移るとよく、聞くからな……」
「……? どうした?」
「いや……なんでもないさ」
「そうか……」
いや、それはそうとして。
もし俺たちがここにいてはいけない招かれざる客だとしたら、めっちゃ面倒なことに巻き込まれてるんじゃね?
「……なあ君」
「あっはい」
村長と呼ばれていた獣人が俺の目の前まで来ると、突然ひざまずき大きな声で叫び始めた。
「どうか! どうか村人を助けてくれないだろうか!?」
「なっ、村長!?」
「人間に頼むなんて正気ですか!?」
いやなんか俺置いてけぼりで言い合いしてるぅー。
「村長さん。もしかしてこの病気が……」
「お前は寝ていたから知らなかっただろうが、君と同じように全身に面皰ができる村人が増えておるのだ」
「ですが人間に手を貸してもらう必要はありません! それとも村長は10年前に人間に何をされたのか忘れたのですか!?」
「忘れるわけがなかろう、だがだからといって病を患った村人を見捨てることはできん」
「し、しかし……」
戸惑う獣人に村長は気に留めることなく話をつづけた。
「……この村には何もない。食料が多いわけではない、人間が使っている通貨を持っているわけでもない、特別な物があるわけでもない。だから見返りを求められたら私たちは何も差し出せるものがない……だがそれでも、とても無礼なのは分かっているが私たちを助けてほしい! 我々獣人を見て気分を悪くなされたかもしれない、それでも……どうかっ……‼」
「何をやっているんですか村長! あんなことをしてきた人間がそれを承諾するとは―――」
「しゃーない、いいよ」
「……えっ」
えっ? なんで静まり返ってんの?
「もう一度言うが私たちから渡せるものは何一つない。それでも本当に治して……」
「うん。お金とか物とか取る気ねーし最初っからタダだよ」
「なんと……!」
「バカな……あの強欲な人間がそんなことを言うなんて……!」
なにこのムード俺だけ浮いてんじゃねーか。
まー正直言うと面倒ごとに巻き込まれるのは御免だが、助けられる人を見捨てるっていうのは後味が悪いし。
デトロイトでも選択肢出たときは助ける選んだし、それに俺ゲームではサブクエストはどんどんこなしていく派だからな。
「ありがとう……本当に……本当に……」
それに見返りなんぞ求めなくてもまず薬の原価がタダだからなぁ(白目
金には……まぁ困ってるっちゃあ困ってるけどここから取る必要はないしな。
「けどサハタダ様、ソプテマ草はどうするつもりですか?」
「あっ……あーそれね」
やっべーすっかり忘れてた。
えーっと確か三日以内だっけか。
「ソプテマ草……それはあの薬草の?」
「あー……そうなの?」
「あの薬草のソプテマ草で合っている。私達がここまで来たのもそれの採取が目的だ」
「何本必要なんだ?」
「90本だな」
「わかった、それを私達が集めよう」
「まーじ!? いやーそれはありがとう。助かるわ」
「では早速で申し訳ないが……」
「へいへい、じゃあ患者のとこまで案内してくれ」
……なんかこの世界に来て初めて医者っぽいことやってる気がする。
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