その13 ダマスカス級冒険者

~使徒級、オーク視点~



 ……どうやら追ってはもう来てねーみてェだな、奴らがシルバーの雑魚ばっかりだったおかげで岩とコブリンを投げて逃げ切れてよかったぜ。価値のねー奴らの相手するほど暇じゃねーんだわ。

 だがどうしてデカブツオークどもの中に『大三山』がいねぇんだ?

 姿が見えなかったからわざわざ迎えに来てやったのに……チッ、俺とゴミ60体ほどじゃそんなに楽しめねーぜ。


「オヤジ、ドウスル?」

「……」

「コレカラ、ドウス―――」

「うるせえ、黙ってろ」


ベキャ


「ピギィッ‼」

「ヒッ……」


 うっとおしいゴミだな……ってイラついたせいで何匹か巻き込んじまったな。

 最近アイツらのせいでストレス溜まってっから、わざわざオトリ使って雑魚共を集めてぶっ殺そうと思ってたのによぉ。 

 どっかにオモチャになりそうな人間はいねぇか?


「いやこの野原の中から雑草探せってどういう罰ゲームなんだよ! 難易度高すぎるだろ!」


 ……ん? ありゃあ……

 

「オヤジ、アレ、ニンゲン」

「ニヒキ、ニンゲン、イル」


草原のど真ん中に人影が二つ見えるな……冒険者か!?


「そ、そんなことないですよ! さっきランタンさんが薬草の見分け方を教えてくれて―――」

「葉っぱの先っちょ1cmだけが分かれてる以外雑草と全部同じとかわかんねーよ! ……クエストランクで判断するべきじゃなかったぜ……」


 こんな大草原で薬草探してんのかアイツら!? ……いや、そんなことはどうでもいい。

 薬草集めてるし首の板が銅っつーことはアイツらカッパー級だな。

 ……これは良いオモチャが手に入るぜ。


「おい、テメーら」

「……ん? レフラン、今何か言ったか?」

「? いえ、何も言ってませ―――」

「オレのオモチャになれ」

「この方はご主人様の知り合いですか?」

「いや……あの、すまん誰?」


 ……なんだこのカラス男と火傷女。

 全長5mの俺の巨体を見て驚かねぇのか……? ちょっくらナメられてるみてえだな……


「オヤジ! オヤジ! ハヤク!」

「ハヤク! ハヤク! コロシタイ!」

「まぁ待てよお前ら……フンッ!」


 ドゴッ!

 

 ……手に握っていた丸太よりも太い棍棒を地面に向けて横に振りかざしてやった。

 地面がエグれて5~6mほどの深さになったな。

 これを見りゃあ並大抵の人間は動けなくなり、恐怖に染まっていまにも押しつぶされそうな顔面を見せてくれる。


 前に山の中で会ったのは食材を取りにきていた人間の男と女だったなぁ……今みてぇにこれを見せたら死にそうな顔でこっちを見てきたな。

 そのままコブリンに囲まれてボコボコにされて無様に死ぬ男は見てて気分が良かったぜ。

 特にコブリンに犯されてる女の前に男の首を投げつけてやった時は最高だった。

 こいつらもそいつらみてぇに同じ屈辱を―――


「えっ何やってんのアイツキチガイか?」


 ―――は?


「キチガイ? あの人はキチガイという名前なんですか?」

「いや全然違うよレフラン。しかし会話も進んでないのに勝手に行動するなんて……バグってやつなのか?」


 こ……こいつら調子にのりやがってよぉ……ッ!

 オモチャは一人でいい。だったらこのカラスを叩き潰してやるッ! ギャハハハハ! 一瞬で楽にしてやる! 泣きわめくがいいぜ!


「っ! ご主人様後ろ!」

「―――ぇ」


「……あ?」

「キエタ! キエタ! キエタ!」


 あのカラス男と火傷女、白髪の女に一瞬で連れ去られたみてぇだな。

 ということはギルドには既に俺のことが……いや、まあいい。 雑魚にゃあ消えて見えたかもしれねぇが俺にはどこへ行ったかも見えた。

 俺様の邪魔をした罰だ……あの白髪女は雑巾みてぇに地面に叩きつけてぶっ殺してやる。 


「ゴブリン共、先にあっちに行っとけ。まだまだ楽しめそうだぜぇ」

 


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ~サハタダ視点~



「……とりあえず成功はしたけど」

「……あれ? ここは?」

「ここはさっきの場所からそう離れていない林の中だ。二人共、怪我はないか?」

「私は大丈夫で……ごっご主人様! ご主人様!?」

「こっちにいる。全然問題ナッシングだ」

「よかったです! あの振り下ろされた棒に当たってたらと思うと……」


 おいおいそんな泣きながら抱きしめてくんなって。

 俺が死ぬわけないじゃん(白目)


「そうか……間に合ってよかった」


 どうやらあの一瞬でオークみたいな奴の前からランタンが移動してくれたみたいだな。

 もしかしてわざわざ助けに来たのか?

 

「おいおいランタン、なんでこんな所に―――」

「そんな話は後だ、君たち二人はこれを手に持って砕いてくれ。高い魔法道具だから大切に使ってくれよ」



△system

 帰還の結晶 を入手しました



 帰還の結晶……ギルドに帰れるアイテムとかか?



△system

 説明:帰還の結晶

 

 これを砕くことによってその場から最も近いギルドに帰還することができる魔法道具の一種

 

 かつて深淵を覗くために作られた黒園教会は、危険な場所へと進む使徒たちにこれを持たせていたという

 のちにギルドの手によって大量に生産され

 それは幾多の冒険者を救ってきたのだ



 どうやらそうっぽいな。

 けどこんなものどうして俺達に……いやまさか。

 俺達を逃がして身代わりになるつもりか!?


「おいまてランタン! 俺達にちゃんと説明しろ!」

「どうしてこんな所にランタンさんが?」

「説明している時間はない!」


 さっきス一瞬だけスキルを発動してあのオークを見た結果ランクは使徒だった。

 対してランタンの冒険者ランクは……



△system

 スキル【観察眼】 発動



△system


 冒険者ランク:ダマスカス級


 名:ランタン 苗字:ルーカス


 性別:女


 種族:人間


 年齢:20


 素性:盗賊


 更なる詳細 →はい いいえ



 こ、こいつ20でもうダマスカスなのか……って今はそんなことどうでもいいな!

 さっき一瞬だけ【観察眼】であのオークのステータスを覗いたが使徒級だった、それをランタンに任せるのは例えダマスカス級であるランタンでも危険だろう。

 それなら恐らく倒せるであろう俺が二人を逃がすべきなんだろうがその光景をランタンとレフランには見られたくねぇ!


 じゃあどうするか……そうだ、意識を失わせることができる魔法を習得してこの二人を気絶させればいい!



△system

 眠りのスクロール を取得しました



△system

 魔法〈蔓延る眠り/スペリングスリープ〉 Lv.5を習得しました



 MAXにしたら永遠に寝そうだから半分くらいにして……と。

 あとはこれをこいつらにやれば―――


「―――って……え?」

「ここは……ギルドでしょうか……?」

「ま、マジかあいつ……っ!」


 俺達が握ってた結晶を砕きやがった!

 もしかしてあそこに一人で残っているのか!?


「サハタダさんと……レフランさん、無事だったんですね!」

「うわっ! 淫乱女じゃん!」

「淫乱とは失礼な! いや、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はここのギルドを管理している者トリサ・ドリットと申します! パートン支部へようこそ!」

「おうよろしく、ってそんな場合じゃねぇ!」

「そうですよ! ランタンさんが……ランタンさんがまだあそこに!」


 使徒って言われてる奴らがどれほどの能力を持ってるかは知らねぇがあの地面を安々とえぐるほどの怪力。

 あの時は「なにやってんだこいつ」って気持ちの方が強かったせいで気にしていなかったが、あれを普通のチートを使っていない人間が受ければただでは済まないだろう。


「皆さんを襲ったオークの名は使徒級だから私たちは手も足も出ません。ですがしばらくしてからアダマンタイト級の冒険者さんがこっちに来てくれていので、その人が来るまで待機ですね」

「あと何分で来るんですか?」

「15分くらいらしいです。無事を祈るしか……ありませんね……」

「そ……そんな……」


 15分じゃ絶対に足りないだろ。

 それにてめーの表情、なんていうかとても悲しそうじゃないか……最初から祈ることが無駄ってわかってるみたいにな。

 ……もういい、アダマンタイト級の冒険者さまがどれだけ名前負けしてるかってのがよーくわかったよ。


「……すまんちょっとトイレ行ってくる。どこにあるのか教えてくれないか」

「その角を右に曲がった奥にありますよ」

「おうありがと、あと大の方だから帰ってくるの遅くなるわ」

「早く帰ってきてくださいね! 魔法壁の中に避難しないといけませんから!」


 

 ……さーてと、じゃあ行ってくるか。

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