その12 異世界に来て草を取る男

「……あっ」

「……」

「これで5個目、目標まであと35個……」

「……」

「ご主人様は何個手に入れましたか?」

「……3個」

「3個ですか……このペースだと今日中に帰るのは難しいかもしれませんね」

「……」


 ……異世界に来て何やってんだ俺。


「残り32個、頑張って集めましょう」

「……いや、これ無理じゃね?」

「……」

「……」


 現在、俺とレフランはどこ見渡しても一面クソミドリなライフ大草原という場所のど真ん中で立っていた。

 何故そんなところにいるのかっていうと、ランタンが出したクエストが原因だ。



 内容は『薬草を40個納品しろ』。



 ……いや、まあとても初歩的なやつだ。


 モン〇ンでいう「こんがり肉焼いてこい」みたいなアイテムの入手方法を教えてくれるチュートリアル的なクエストだ……と、思っていた時期が僕にもありました。


「いやこの野原の中から雑草探せってどういう罰ゲームなんだよ! 難易度高すぎるだろ!」

「そ、そんなことないですよ! さっきランタンさんが薬草の見分け方を教えてくれて―――」


「葉っぱの先っちょ1cmだけが分かれてる以外雑草と全部同じとかわかんねーよ! ……クエストランクで判断するべきじゃなかったぜ」



 ※クエストランクっていうのはクエストの難易度のことだよ!冒険者ランクとはまた違うから気を付けよう!


  

 調停者:難易度ゲキムズ、人類どころか世界滅亡できる敵が出てくるレベル。アダマンタイト級冒険者のみのパーティーでもクリアできる確率がかなり低いであろう、とにかくヤバい。 

 

 神竜:国がまるまる一つ壊滅する敵が出てくるレベル。調停者のクエストよりかは難易度は低い。


 使徒:町や都市が壊滅、または機能停止して住めなくなるほどのリオレウスみたいなのが敵で出てくるレベル。

   

 精霊:不特定多数の生命を危険に陥れることができるババコンガレベル。一般市民がこれに挑めば大体5~10人死んだりする。


 牙獣:人よりちょっと強いくらいなドスジャギィを相手にしたり簡単な採取クエストをする難易度。基礎的な知識を持っていないとちょっとキツい。


  鯱:ジャギィ討伐とか誰でも取ってこれる採取クエストがあるお使い難易度のレベル。特別な力がなくてもしっかり準備して挑めば八割のカッパー級冒険者がクリアできる。

 


 俺がクエストを見た時は鯱だったのでそれを選んだんだが……まさかここまで苦行だったとは、別の意味でかなり難易度が高かった。

 こんなミッケみたいなことにあとどれだけの時間をついやせばいいんだよ!?


 発狂するわぁぁぁぁああああ!


『チート使えよ』


 っていう人もいるだろう。

 けどなぁ……これから平穏な生活を送るためにあんまりとチート使わないって縛りしたんだよ!

 男に二言はな……ってこれもしかして。


「こ、これ薬草じゃねーか!? 葉っぱの先が分かれて―――」

「それは……雑草ですね。確かに分かれてはいますけど、切れ目が雑ですし何かの拍子に裂けたのだと思います」

「……そうか」



 ―――早く帰りたい。

 ゲーム特有の無駄にアイテムがキラキラ光る機能とかあったらなぁ……これじゃファミコン世代の鬼畜ゲーだぞ。


「―――おい、テメーら」

「……ん? レフラン、今何か言ったか?」

「? いえ、何も言ってませんよ」


 あれぇ? 今知らねー人の声が聞こえたような……ってなんだこの足元の大きな影。

 俺の後ろに誰か立って――― 


「オレのオモチャになれ」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ~ランタン視点~



「……うーん」

「どうやら起きたみたいだね」

「……あっ。 おはようランタン!」

「おはようって今昼だよ……。それと伝えたいことがあってね、うちらのギルドに二人新しく入ったよ」

「マジかぁ!? さっすが私! 頼りになるでしょう!?」

「いや君のせいであの二人ちょっと引いてたぞ!? これからはもっとマシな勧誘を―――」

「それでどのクエストに行かれたんですか? あと認識票のコピーがあれば見せてください!」

「人の話を最後まで聞いてくれ!」


 こいつとは10年ほどの付き合いがあるが、それだけたった今でもこいつが何を考えているのかわからないままでいる。

 

 ……まあしっかり仕事はしてくれるし、そこだけ見れば超優秀だからこちらもあまり強くは言えないんだけどね。

 とりあえずあの無意識な淫乱的な言動と行動をやめてくれればいいんだが……

 

「ったく……まあいい。君が寝込んでいる間に私が登録しておいた、最初ってこともあるし簡単な薬草集めをさせてる。見つけるのには少し苦労しそうだけど……時間をかければ誰でもクリアできるクエストだしね」


「……ってSのステータスがある子だったの!? とっても当たりじゃない!」


「そっちにばかり目が行きがちだけど男も運Eを除けばなかなか良いステータスしてる。これからどう伸びるか楽しみだね」


 今回トムサが連れてきた二人はステータスを見たところ『当たり』だ。

 運Sなんて見たことがないから効果もどれほどあるのかわからないがパーティーに一人いるだけでもかなりの恩恵があるだろう。

 だか少し欠点があるとすれば……レフランちゃんの近くにはサハタダがいることだ。

 恐らくだが運SとEが二つ合わさることで全体の運がCほどに落ちているんじゃないだろうか……


 まあステータスというのは経験を積めば積むほど変化するし大丈夫だろう。

 それに今回のクエストでそれは全く関係な―――


「憲兵軍の者だ、トムサはいるか?」


 突然ドアを強く開いて入ってきたのは……あいつら憲兵軍か?

 まあいい、私には関係ない話だろうしコーヒーでも入れるか。

 

「はいはいー! なんでしょうか!?」

「ここから近い場所にクエストに行った冒険者全員に召集命令をかけてくれ。といってもまあここの冒険者は丁度良く全員隣町に移動しているだろうが」


 ……ん? 召集命令だと?


「えぇ? どうしちゃったんですか?」

「隣町で報酬集金が良いクエストがあるのはお前も知っているだろ?」

「内容は『15体の中型オークの殲滅』でしたよね。精霊級のクエストだと書いていました」

「そうだったハズなのだが……どうやらそれは冒険者をおびき寄せる罠でな、他にコブリン数十体と使徒級リストに載っている個体が隠れていたんだ」

「オークの……使徒個体!?」


 オークの使徒級って言ったら……まさかアイツがここにっ!?


「冒険者を何人も怪我させてからそのまま逃走。それを見失わなぬように追跡しようとしたが、大勢のゴブリン共に囲まれて失敗、そのせいで怪我人が続出して中断したらしい。シルバーの冒険者ばかりだっただろうしな……そしてだ。そいつが逃げた先にあったのがこの町の近くにあるライフ大草原という場所だったのだ」

「ライフ……大草原……」

「だが安心してくれ、その街の近くにいたアダマンタイト級の冒険者に緊急要請をしたという連絡が来た。あと15分ほどでここに到着するらしい。それまでに我々は住民を魔法壁の中へ避難させる」

「来るのにあと15分もかかるんですか!?」

「ああ……だから冒険者が来るまでの間、そのモンスターを足止めしなければならないが……誰か戦力になりそうな知り合いは―――」

「……行ってくる」

「まっ、待ってランタン!」


 ―――急がなければいけない。

 冒険者になりたての医者とその弟子が使徒級の敵相手にかなうわけがない!


 頼む……生きててくれよ!

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