第8話 湖で水遊び

「……もう朝かぁ」


 テント越しからでも伝わってくる太陽の光に目が覚めた。

 今は太陽の位置的に午前7時といったところだろうか。


「おはようございます、ご主人様」

「おう……おはよー」


 消えた焚火を前に体育座りしているレフラン。

 ……俺より先に起きてたのか。


「とりま朝飯食おう。ウサギの肉でいいか?」

「は、はい!」


 嬉しそうに笑うなぁ。

 まー肉好きなのは別に構わないが、食わせすぎて太らないようにそこらへんはよく考えなくっちゃな。


 えーっと……ポーチに入れといたアイテムを出すか。

 レフランからはテントの中から出したように見せかけて。


「ふぉい、昨日のウサギの肉―――」

「……?」


 止まった俺を見てレフランは不思議そうに首をかしげる。

 

 このウサギの肉……なんか熱くね?

 肉汁が光に反射してテカテカしてるし、焼きたてってかんじの肉だ。


 もしかしてだがポーチの中に入ってる時は時間が経過しないのか……!?

 それはとてもいいな、料理の保存に困らねえ。


「……はいどうぞ」

「ありがとうございます……!」


 レフランは嬉しそうに肉を両手でしっかりと持つと、端っこからチマチマとかじって食べ始めた。

 なんつーか、種を食べるハムスターみたいだな。


 とりあえずこれを食い終わったら町に向かうか。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 テントを持ち運ばず置いとくのも変だし、かといって一瞬で消えたりするのを見られたら変だと思うので大きいリュックサックを出現させ、その中にテントを入れて持ち運ぶことにした。


 レフランが「私が荷物を持ちます」と何回も言ってきたが、さすがにこんな大きい荷物を12歳の少女に持たせるわけにもいかねえよと断った。

 その時のレフランの残念そうな顔が数分経った今でも忘れられない。


 町の場所だが、どこにあるのか全くわからないのでとりあえずマップを見ながら歩いている。

 ちゃんと着けるか少し心配だが……まーなんとかなるでしょ―――


「……ん?」

「ご主人様、どうかしましたか?」


 このマップに映ってある青いのは何だ?

 なんつーか絵の具をこぼしたみたいになってるが……これはもしかして。


 90度横を向き少し歩くと、やはりそこには思った通りのものがあった。

 マップには大きな文字で泉と書かれている。


 太陽の光に反射してキラキラときらめく透明な泉がそこにはあった。

 

「丁度いいぜ。レフラン、折角だしここで体を洗えよ」


 石鹸をチートで出現させて……うおっ結構石鹸にも種類があるんだな。

 とりま一番良さそうなのを選ぶか。

 ……いや確かにチート縛りはするとは言ったけど、これはレフランのためを思ってだからしょうがない。

 


「わかりました」


 レフランの体は泥とか土が付いてて汚れてたからナイスタイミング―――って!


「おいおい俺の前で服を脱ぐなよ!」

「……?」


 くっそなんだよその疑問そうな顔は!

 反応に困るわ!

 つーかその服って布巻いてるだけで下着は来ていなかったのか!?

 さすがにヤバすぎるだろ!


「あー……別にレフランがそれでよければいいんだぜ? ただ女の子が男の前で服を脱ぐことはあんまし良いことじゃないからさ」

「そうなんですか?」

「……あーもういい、今の全部無し。さっさと忘れてこの石鹸持って行けよ」

「はい。あーん」

「食べたら駄目だぞ!?」


 傍から見たら俺頭おかしい人だろうな。

 ……くっそ、この年の女と過ごしたことねーってこともあるし、レフランの生い立ちが特殊すぎて慣れないぜ。


 レフランは頷くと体に巻いていた布を地面に置き、そのまま泉の中へと足先からゆっくり入っていく。

 

 開けた場所を通る風で靡く灰色の髪、綺麗な肌色の上を滑り落ちる水、そんな体の所々にある痛々しく目立つ火傷の跡。

 こんなの俺がいた日本では見れない、フアンタジーな光景だ。


「洗いました」

「えっ早くね? つーか水につかっただけじゃ……って全然洗えてねーじゃん!」


 水に中途半端に濡れたせいか肌や髪の油に光が当たって光っている。

 ……もしかして体の洗い方を知らないんじゃあないだろうな!? 


「……しょーがねぇ。ちょっと待ってな」


 建前はレフランに体の洗い方を教えようとするためだが、本音を言うと俺も泉に入りたい。

 こんなの日本ではなかなか入れないしな。


 だがまあ……服ってマジでどうすりゃいいんだ? 

 このコートと仮面着たままだったら絶対不振がられるし、せめてどうにかして服だけでも変えなけれ……いや、まてよ。

 服は装備から変えられるんじゃ!



△system

 服装


頭 藪医者のロングハット


胴 藪医者のコート


腕 藪医者のグローブ


足 藪医者のズボン



 なんだあったのかよ。

 つーか自分の装備の名前始めて見たけど藪医者なのか……んで、こういう装備が今後も出てくるならこれ系のスキルを取っといた方がいいな



△system

 スキル【鑑定】Lv.MAXを習得しました



△system

 説明:藪医者のマスク


 別世界から来た男が着けている仮面とロングハット

 かつての医者達が着けていたマスクに似せて作られており、独特な形をしている

 調停者タリスは願ったのだ

 全ての始まりだった彼がこちら側へ入り込んでくることを

 

 

 アイテム説明欄とかもあるのか。

 ここらへん何かダークソウルっぽいけど……これ書かれてるのって俺のことなのか?

 まーそんなことは今はいい、とりあえず頭の装備を外し―――


 ……外れねえ。



 ―――2分後―――



「ほい、来たぜ」

「……」


 レフランは俺の体をじーっと見つめてくる。

 ちなみに今の俺の姿は服を脱がずに着衣水泳をしているかのような状態だ。


「……服のことは気にするな」

「わ、わかりました」


 ……これからこの脱げない服をどうするかも考えねーと。

 水位はレフランのふとももくらいまであり、温度はまー熱くも冷たくもない入れる温度だ。


「まずこの石鹸で両手に泡を作るんだ」

「こう……ですか?」

「そうそう。んでこれを頭に付けてゴシゴシして、それを水で流してから次は体をゴシゴシするんだ。まあ初めてだろうし俺がやってやるよ。あと目を瞑っておけよ」


 石鹸を両手で握って泡立たせたのち、レフランの頭を手でゴシゴシと左右上下に動かす。

 しかし石鹸のおかげで油が落ちてるが予想以上にベッタベタだな……おじさんは風呂に入れてくれなったんだろうな。

 とりまレフランの頭の水を流して……と。


 次は体を洗うわけなんだが……これ俺が触っていいのか?

 大丈夫なのか? 普通にアウトじゃないか? 俺ロリコン判定になるんじゃないか?


「……どうしました?」


 俺が止まっていることに疑問を抱いてるな。

 ……まあこの世界だとセーフでしょ。


「……いや、なんでもない。ほら、体洗うぞ」


 ……まずどこを洗えばいいんだろうか。

 と、とりあえず無何な肩から……


「んッ……!」

「……」


 そのまま腕行って、次は腰当たりを……


「あっ……んっ……ふふっ……」


 なあ……これ大丈夫なのか?

 つーか12歳なのに一々エロくない?

 あーだめだ、俺の心の中の罪悪感が凄い。


「……レフラン、お前自分で洗え」

「! 待ってください!」

「えっ……ちょおまっ!」


 立とうとした直後足を引っ張られてそのまま頭から泉に突っ込む。


「ぶへっ! どうしたんだよ急に―――」

「サハタダ様が私の体を洗ってくれませんか……?」


 おいおいおいおいおい!

 そんな寂しそうな目で俺を見んなって!

 ど、どうやって断ろうか……どうすればいいんだよ!


「い、いやーそれはマズいですよっつーか女の子にそれは―――」

「サハタダ様にもっと触れていたいんです。なんでかはわからないけど……安心するんです。だから……」

「……」



 あーもうマジで……これアウトだろ。

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