その42 狂信的な独創性
振る。
フッ
振る!
ブンッ
なのに……振っているのに攻撃が当たらない……!!
「あら~もう息切れしたんですかぁ?」
「……ッ!!」
バッ!!
こうなったら、至近距離に一気に詰めてここで攻撃を――
「へぇ~」
フッ
……っ、まただ。
今、明らか握っていた剣はコイツの体を貫く位置で突き刺したハズだ。
なのに予備動作もなく避けた……?
「けどぉ、まーったく効きませんねぇ」
蝿の羽音が周囲に響き渡り、それを聴くだけで焦りが生まれていく。
……今私のできる攻撃が全て通じない。
相手に明らかに当たっているように見えても空振りするこの感覚は、もしかして幻覚なのではないかと思えてくるほどだ。
――だけど……だからと言って攻撃を辞める気はない!
ヒュンヒュンヒュンヒュン
「おふぉ~」
何事もなかったかのように全てよけながら空中へと飛び、そこで一回転しながらじっとこちらを見つめてくる。
「皆さん、はやく逃げてください!」
これは……ラスマの声か?
「おいおいあいつぁ何やってんだ?」
「ちょっとなんであの鎧が井戸に近づいてんのよ、早くアソコから離しなさいよ!」
「もしかして中に虫入れようとしてんじゃねーだろうな!?」
「おい誰か! 早く司祭様を呼んできてくれ!」
「そんな……! み、皆さん! 私の言うことを聞いてください!」
なんであの人たちは逃げようとしないんだ!?
ラスマがいくら止めようとしても、多数の獣人たちが私の周りに集まっていく。
このままじゃ――
「気が付いちゃったぁ!」
何かに納得した蝿女は空中でニヤリと笑い、大きな声で叫ぶ。
「アナタ、今手加減してますよねぇ」
「……」
「あの足を取られた時よりもさらーに速度が落ちてますよぉ。なんでですかぁ? もしかして周りに集まってきたムシが邪魔だから本気をださないんですかぁ? 気遣っているからですかぁ?」
「……ならどうしたっていうんだ?」
「最後まで話を聞いてくださいよぉ。アタシが気が付いたのはそれだけじゃぁないですゥ!」
フッ
「なっ……!」
突然動き出した蝿女は一点方向を見つめて進み始める。
その先にいたのは、こちらを疑うかのような目でずっと見ている獣人達だった。
――殺される。
あの人達は何が起きているのか気が付いていない。
ただじーっとこちらを見ながら何か叫んでいるだけだ。
周囲に害が及ばない程度に本気を出して、アイツに一気に近づかなければ……攻撃が当たらなくても何とか阻止を――
「――アナタ、半獣人でしょう?」
「――ッ!?」
――後ろ!?
ブウォンッ
バキイッ!!
「ヒイッ!?」
「な、なんだよ……急に木が倒れたぞ!」
私の隙を突いて近づくために……わざとフェイントを仕掛けたのか!?
なんで……なんでコイツなんかにここで……!
~トムサ視点~
「お~っとあっぶな~い! ちょっと~貴方が守ろうとしてたムシケラに当たりそうでしたよぉ~!」
「フーッ……フーッ……フーッ」
「あらあらあらー? もしかしてぇ図星って奴ですかぁ!?」
「うるさいッ!!」
ヒュッ
バゴォォォンッ!!
「……っ!! パトリックさん!?」
パトリックさんの様子がおかしい……!?
ここからはどんな会話をしているかはよく分からないけど、けれどさっきよりも攻撃が荒くなっているような気がします。
「うわぁぁあ! なんなんだよこれ!」
「一体何が起こってるんだ!?」
いや、そんなこと今はどうでもいいです!
パトリックさんだっていつ負けるかはわからない、だからアイツの気を引いてくれている間にみんなを避難させないといけないのに……なんでっ!
「み、皆さん私の話を聞いてください!」
「邪魔だかららそこどけ――」
「静粛に!」
突然大きな声が鳴り、みんなの視線が一方を向きました。
この声には聞き覚えがあります……なんて最悪なタイミングなのでしょうか。
「ああっ! 司祭さま!」
「我らが救世主、司祭様がやってきたぞぉ!」
私の声を全く聴いてくれなかったみんなは司祭の周囲へと集まっていきます。
司祭はそれらに笑顔で返すと、落ち着いた様子であたりを見渡しました。
「……ふむ、どうやらただ事ではないようですね」
「そうなんです! あの二人が井戸に近づいた直後木が倒れて……もしかしてアノプトリス神様の怒りなのでしょうか!?」
「どうすればアノプトリス神様は我々を許して下さるのですか!?」
泣きわめき、地べたに頭を擦り付け、両手を合わせて命乞いをする……狂ってます。
……けど、だからと言って助けないわけにはいけません。
「司祭。今すぐ皆さんを連れてここから離れてください!」
「……ほう、誰かと思えば神を否定する君ですか。しかしその口ぶり、どうやら何が起こっているのか知っているようですね」
「あの蝿女が私の家を壊して村長を殺そうとしたんです! 今はパトリックさんが時間を稼いでくれてはいますが……その間に早く逃げ――」
「ならいい」
……は?
「あの騎士の相手をしている奴は、私が今朝召喚した神のしもべだ」
「なっ!?」
「そうだったのですか!?」
こ、この人は、何を言って――
「といっても私が創り出した生物ではなく、神が送ってきたものです。ドーマが穢れた者をこの世界から『トリロン』するために呼んできたが……どうやら君も、そしてあの人間もドーマが穢れた者だったらしいですね」
「そ、そんな! そんな間抜けな話が――」
バギッ
「――っ!?」
ドサッ
あ、頭が……痛い、し、体が、動かない。
な、なんで、なんで、なんで、なんで。
「やっぱりお前のダーマは穢れていたんだな」
「ま……待って、くださ――」
ドガッ
「ぐぇッ!」
だ、めだ話が……通じ、ない。
「お前はあの神聖な神のしもべから私達を遠ざけようとした! そして加護が弱まった時に穢れを移すつもりだったんでしょう!?」
「なるほど……確かにそれなら辻妻が合う!」
「前から神を否定していたよな。それってもしかして邪神のしもべなのか!?」
「なっ……じゃあ今までずっと俺たちの近くにクソ野郎が住んでいたってのかよ!」
「ならもしかして、この世界をずっと人間が支配していたのもこいつのせいか!?」
「俺達がどんな作物を植えても上手くいかずに飢えたのもきっと関係がある!」
「悪いことは全部こいつのせいだったんだ!」
消えそうな意識の中、口や目に砂が必死に入らないように顔を上げます。
その時視界に映ったのは、ただずっとにやつきながら黙って私を見続ける司祭の姿でした。
元チートツール製作者のスキル《チートツール》が最強ってレベルじゃないんだが 魚を1匹見つけたら100匹いると思え @sakanatarouv
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。元チートツール製作者のスキル《チートツール》が最強ってレベルじゃないんだがの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます